君の隣が、いちばん遠い
⑤すこし、甘えてみてもいいですか
放課後の教室には、もうほとんど人がいなかった。
窓の外では蝉が鳴き、茜色の空が静かに校舎の壁を染めている。
誰かが消し忘れた黒板の文字だけが、そのまま残っていた。
わたしは、廊下に出かける準備をしながら、ふと立ち止まった。
窓際に置かれた自分の席。
そこに座っていた時間が、今日は少し特別に感じられる。
「ねえ、佐倉さん」
教室の出口に向かおうとしていたわたしに、岸本さんが声をかけてきた。
「今日、放課後残ってたでしょ? なんか、最近よく教室にいるよね」
「……うん。居心地が、よくなったから」
そう言いながら、自分でもその言葉が不思議だった。
前ならきっと、「なんとなく」と濁していた気がする。
「そっかー。なんか、わかる気がする」
彼女はにこにこと笑いながら、机の上に肘をついた。