君の隣が、いちばん遠い


「……行こうか。いい場所、知ってるんだ」


一ノ瀬くんが言って、わたしはこくりとうなずいた。


わたしたちが歩いた先には、神社の裏手にある小さな土手があった。

人が少なく、花火を見るにはちょうどいい高さだ。


その道を歩く途中、わたしはふいに足元をぐらりとさせた。


「わっ……」


慣れない下駄。石畳にひっかかり、体がバランスを崩す。

その瞬間、隣にいた一ノ瀬くんがすっと手を伸ばして、わたしの手を握った。


「大丈夫?」

「……うん、ごめん」


ぎゅっと握られた手。

少しだけ、汗ばんでいるのがわかる。


けれど、その手のあたたかさが、わたしの胸にじんわりと染みた。


離さずに、そのまま歩き続ける。

言葉はなくても、それでよかった。


並んで腰を下ろすと、涼しい風が吹いて、浴衣の裾がそっと揺れた。

空にはまだ明るさが残っていて、遠くで花火の準備の音が聞こえる。


「……ありがとう、今日来てくれて」


ふいに一ノ瀬くんがつぶやいた。

わたしは、隣を見て小さく笑う。


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