君の隣が、いちばん遠い
「……わたしも、来てよかった」
それ以上、言葉はなかった。
でも、静かな沈黙がふたりの間に流れた。
気まずさのない、心地よい静けさ。
そのとき、夜空に第一発目の花火が上がった。
わたしは、反射的にびくりと肩を揺らす。
「わっ……」
色とりどりの花が、空に咲いては消えていく。
その光が、ふたりの表情を柔らかく照らす。
ふと、わたしは一ノ瀬くんの袖をそっとつかんだ。
ほんの少しだけ、近づきたくて。
彼は驚いたように顔を向けて、それから静かに笑った。
そして、何も言わずに、そっと自分の手をわたしの上に重ねた。
言葉じゃなくて、気持ちだけが確かに伝わったと思う。
花火が終わり、人混みの中で4人が再び合流した。
「また来年も来ような!」
柊くんが笑いながら手を振る。
「ねぇひより、来年は浴衣もっと派手にしよ?可愛すぎてずるいんだけど」
紗英ちゃんが笑ってわたしの肩を軽く叩いた。
それに、わたしは照れくさそうに笑い返した。
この数か月で、自分は少しだけ変わったのかもしれない。
帰り道、灯りの消えた通りを、4人並んで歩く。
その中で、ぽつりとつぶやいた。
「……また、みんなで、来たいな」
その言葉に、誰もすぐには返さなかった。
けれど、4人の歩幅が、自然とそろった気がした。
夜風が浴衣の袖を揺らす。
その中に、わたしの声が、確かに残っていた。