君の隣が、いちばん遠い
「なにがだよ」
「いや、別に? ちょっと顔に出てたからさ」
「は?」
「羽柴と隣で、内心ちょっと複雑なんじゃないかって。……ま、俺の気のせいかもしれないけど?」
一ノ瀬くんは柊くんを睨みながら、小さく溜息をついた。
「ねぇ、席近くなりたかったな~!」
昼休み、わたしの席に紗英ちゃんがやって来た。
りんごジュースの紙パックを片手に、いつもの笑顔だ。
「こっちまで来るの、ちょっと大変だったよ」
「……ありがとう」
「でも、やっぱり落ち着くんだよね、ひよりと話すの」
紗英ちゃんは笑いながら、わたしの机に肘を乗せてくる。
「吉岡くんも静か系でいいよねー。美術部なんでしょ? 絵、見たことある?」
「……ない、けど、よく描いてるのは見かける」
顔を上げると、吉岡くんが読んでいた文庫本を静かに閉じた。