君の隣が、いちばん遠い
お互い口を開くことはなかったけれど、その日、机を並べたとき。
吉岡くんが小さく会釈をして、ひよりも小さく頭を下げた。
それだけで、なんだかすこし安心できた気がした。
一方、遥の新しい席は教室の反対側──そしてその隣には、羽柴玲奈さん。
長い手足にハーフのような整った顔立ち。
一ノ瀬くんに好意を寄せているのは、クラスの誰もが知っていた。
「やばー! うちら隣! 運命感じちゃう!」
羽柴さんは笑いながら言い、軽く肘で一ノ瀬くんをつつく。
「そ、そうだね」
一ノ瀬くんは笑って返すけれど、その笑顔はどこか引きつって見えた。
そのやりとりを、わたしは遠くから見ていた。
ほんの少し前までは、もっと近くにいたはずなのに。
気がつけば、また“遠くから見る”立場に戻ってしまったような──
そんな感覚。
「ふぅん……なんか、おもしろいね、この席替え」
柊くんが後ろの席から一ノ瀬くんの方に身を乗り出していた。