君の第二ボタンを見つけた時
第六章:差し出された幸せ
それから週が明けて、ある日部活を終え家に帰ると川口先輩からメールが来た。
『お疲れ様。文化祭の劇で柚桜、主要キャラに選ばれたことだし、決起集会も兼ねてどこか行きたい場所ない?』
『お疲れ様です。原宿のスイーツが食べ放題のところ行ってみたいです!』
玲衣奈によると、川口先輩は意外にも甘党らしくスイーツ好きらしいという。この情報は私がまだ玲衣奈に嫉妬していた時に、玲衣奈が私のために川口先輩に聞いてくれていた。
『オッケ!じゃあ原宿に13時くらいに待ち合わせしよう。』そこで疑問に思った。もしこのお出かけが演劇部の決起集会を意味するならば、なんで個人的なメールで誘ってくれたんだろう。今日の部活中は決起集会のことをみんなに話す様子はなかった。まさか2人でってことだろうか。玲衣奈に聞いてみよう。
「ねえ玲衣奈、川口先輩と話していた決起集会って、きっとみんなでって意味で話していたんだよね?玲衣奈は誘われている?」翌朝、学校に向かういつもの待ち合わせの場所で会った瞬間待ちきれず聞いてみた。
「おはよう!・・うん、みんなでってたしかに話していたけど・・その方が2人より柚桜が緊張しないで楽しめるかなって思って。私は誘われてないけど・・え!柚桜は誘われたの?川口先輩から?!」
昨日川口先輩から送られてきたメールを玲衣奈に見せる。
「えー!!これって絶対2人ってことじゃない?!昨日も部活中そんな話してなかったし!」
「やっぱり?」
「えー!!良かったじゃん!2人きりなら初デートじゃん!デートに誘われたなんて私感動ー。柚桜ファイト!」
「ありがとう!緊張するけど頑張るよ。」
その時はたしかに本当に嬉しかった。中学に入学してすぐ、担任の先生が部活には入った方良いと話していたため、運動が苦手な私が適当に選んで見学に初めて行った部活が演劇部で、そこで川口先輩に出会い、一目惚れをした。それから高校1年に上がるまでこうしてずっと好きでいつづけた。それぐらい大好きな川口先輩にデートに誘われたのだ。恋の快挙と言っても過言ではない。
でも人は時に自分がいかに幸せな状況に気付きながらも勿体無いことをしてしまう時がある。あの頃の私はきっと学生時代で1番幸せな波に乗っていた。でもその時期に差し出された優しくて幸せな手を自ら離してしまうとは、あの頃の私はまだ気づいていなかった___。
週末、本当に私と川口先輩は2人で会うことになった。
演劇部で新入生歓迎会や文化祭の上演後に打ち上げを称して、部員全員でマックに集まったりしたことはあったが、2人きりで会うのは初めてだった。玲衣奈の言う通り、これは正真正銘“デート”だ。そう思うととても緊張してくる。エストレージャのデビュー曲である疾走感のある恋愛ソングを聞きながら待ち合わせ場所に向かうと、“私が恋愛物語の主人公だー!”という気分になれてテンションが上がる。
待ち合わせ場所は渋谷駅のハチ公前だ。さすが渋谷駅は地元の駅と比べて人が多くて、ハチ公前に着いても周りに人がごった返していて、この中から待ち合わせの相手を見つけるのは普通なら至難の業だと思うが、好きな人ならどんなに集団に紛れていてもそこだけが光を放っているようにすぐに見つけられる。川口先輩はハチ公前で難しそうな本を読んで待ってくれていた。
「おはようございます。お待たせしました!」
「おはよう。じゃあ行こうか。」いつもみたいに優しい笑顔を向けてくれる。この笑顔が私の癒しで大好きだ。今日もかっこいい。そして今日はいつもと違って私服姿を見れるなんて最高に幸せだ。なのに・・・。
『木村!おっす!』
『なあ、木村』
『木村!こんなとこにいたのかよ?』
新谷の眩しい太陽のような笑顔が急に頭に浮かんでくる。今は川口先輩とデートしているのになんで・・・。
私たちは初めに渋谷駅の映画館で、私が気になっていたホラー映画を見た。ホラー映画は滅多に見ないが、そのホラー映画はエストレージャのミュージックビデオに出演していた俳優が主役を演じており、見てみたかったのを川口先輩に話したら、「柚桜が見たいものみよう!」と笑って言ってくれたのだ。
その後は渋谷駅から原宿まで歩いてスイーツ食べ放題のカフェに行った。歩いている道中はほとんど部活の話をしていた。
そして玲衣奈の話題も出た。玲衣奈は台本選考会でのことをすごく心配してくれていて、どうしたら私が元気出るか川口先輩に相談してくれていたそうだ。玲衣奈は私が思っていた以上に優しいし、友達の好きな人をとろうなんて考えるような子じゃないのに、そんな玲衣奈を私は疑ってしまった。冷静になって考えてみれば分かることなのに分からなかったのは、大事なところが私には見えていなかった。“恋は盲目”と誰かが言っていたけれど、本当にそうなのかもしれない。
自分のそんな短所に気づき反省していると、川口先輩は話題を変えた。
「そういえば、柚桜は最近もエス・・トレージャ?だっけ?今もハマっているの?」
「あ、はい!かなりハマってしまっています。最近新曲も出て、握手会に行くためにお小遣い貯めてCD買っています。」
「そうなんだ!柚桜、お誕生日も近いし、誕プレってことでCD買ってあげても良いよ?」とまさかの提案をされる。川口先輩が私ののお誕生日を知っていたなんて驚きすぎる。自分のお誕生日を教えたこともなかったのに。でも好きな人に自分のお誕生日をしてもらえていて、さらに誕プレを買おうとしてくれただなんてこの上ない幸せすぎるんじゃないだろうか。でも、そんな幸せな思いに浸っていてもあいつの顔が思い浮かんでくる。新谷だった。
新谷とその友人の近藤は同じエストレージャのファンでよく新曲の話やライブの話に音楽番組の話などで大いにいつも盛り上がる。3人で大好きなエストレージャの話をする時間は楽しくて密かに毎日の楽しみでもあった。エストレージャは今や国民的アイドルグループになりつつあるし、クラスメイトの中でもいわゆる新規ファンが少しずつ増えてきているが、新谷と近藤はかなりマイナーな曲も分かっているし話していてすごく楽しい。
玲衣奈とまだ喧嘩していて図書室に駆け込み、エストレージャのベストアルバムを聴いていた日のことを思い出す。新谷は隣に座り真剣に私の話を聞いてくれた。新谷はいつだって距離が近いしふいにドキッとしてしまうこともある。新谷は、新谷は____。
「柚桜?聞いてる?」ハッとした。何、私___。なんで川口先輩とせっかくのデートなのに新谷のことばかり考えているんだろう。
「あっすみません。ボーっとしてました。」
「疲れちゃった?もうすぐ柚桜が言っていたスイーツのカフェ着くけど、そこのベンチで休憩する?」
「いえいえ!大丈夫です!早くいきましょう!混んでいる時は行列すごいらしいですし!」
つい、焦って川口先輩の手を引いた。大好きな人の手。私より大きくて、私より指が長くて、綺麗な手。この手といつか私の手が交わる日を夢見ていた。でも、今はそれほどドキドキはしなかった___。
『お疲れ様。文化祭の劇で柚桜、主要キャラに選ばれたことだし、決起集会も兼ねてどこか行きたい場所ない?』
『お疲れ様です。原宿のスイーツが食べ放題のところ行ってみたいです!』
玲衣奈によると、川口先輩は意外にも甘党らしくスイーツ好きらしいという。この情報は私がまだ玲衣奈に嫉妬していた時に、玲衣奈が私のために川口先輩に聞いてくれていた。
『オッケ!じゃあ原宿に13時くらいに待ち合わせしよう。』そこで疑問に思った。もしこのお出かけが演劇部の決起集会を意味するならば、なんで個人的なメールで誘ってくれたんだろう。今日の部活中は決起集会のことをみんなに話す様子はなかった。まさか2人でってことだろうか。玲衣奈に聞いてみよう。
「ねえ玲衣奈、川口先輩と話していた決起集会って、きっとみんなでって意味で話していたんだよね?玲衣奈は誘われている?」翌朝、学校に向かういつもの待ち合わせの場所で会った瞬間待ちきれず聞いてみた。
「おはよう!・・うん、みんなでってたしかに話していたけど・・その方が2人より柚桜が緊張しないで楽しめるかなって思って。私は誘われてないけど・・え!柚桜は誘われたの?川口先輩から?!」
昨日川口先輩から送られてきたメールを玲衣奈に見せる。
「えー!!これって絶対2人ってことじゃない?!昨日も部活中そんな話してなかったし!」
「やっぱり?」
「えー!!良かったじゃん!2人きりなら初デートじゃん!デートに誘われたなんて私感動ー。柚桜ファイト!」
「ありがとう!緊張するけど頑張るよ。」
その時はたしかに本当に嬉しかった。中学に入学してすぐ、担任の先生が部活には入った方良いと話していたため、運動が苦手な私が適当に選んで見学に初めて行った部活が演劇部で、そこで川口先輩に出会い、一目惚れをした。それから高校1年に上がるまでこうしてずっと好きでいつづけた。それぐらい大好きな川口先輩にデートに誘われたのだ。恋の快挙と言っても過言ではない。
でも人は時に自分がいかに幸せな状況に気付きながらも勿体無いことをしてしまう時がある。あの頃の私はきっと学生時代で1番幸せな波に乗っていた。でもその時期に差し出された優しくて幸せな手を自ら離してしまうとは、あの頃の私はまだ気づいていなかった___。
週末、本当に私と川口先輩は2人で会うことになった。
演劇部で新入生歓迎会や文化祭の上演後に打ち上げを称して、部員全員でマックに集まったりしたことはあったが、2人きりで会うのは初めてだった。玲衣奈の言う通り、これは正真正銘“デート”だ。そう思うととても緊張してくる。エストレージャのデビュー曲である疾走感のある恋愛ソングを聞きながら待ち合わせ場所に向かうと、“私が恋愛物語の主人公だー!”という気分になれてテンションが上がる。
待ち合わせ場所は渋谷駅のハチ公前だ。さすが渋谷駅は地元の駅と比べて人が多くて、ハチ公前に着いても周りに人がごった返していて、この中から待ち合わせの相手を見つけるのは普通なら至難の業だと思うが、好きな人ならどんなに集団に紛れていてもそこだけが光を放っているようにすぐに見つけられる。川口先輩はハチ公前で難しそうな本を読んで待ってくれていた。
「おはようございます。お待たせしました!」
「おはよう。じゃあ行こうか。」いつもみたいに優しい笑顔を向けてくれる。この笑顔が私の癒しで大好きだ。今日もかっこいい。そして今日はいつもと違って私服姿を見れるなんて最高に幸せだ。なのに・・・。
『木村!おっす!』
『なあ、木村』
『木村!こんなとこにいたのかよ?』
新谷の眩しい太陽のような笑顔が急に頭に浮かんでくる。今は川口先輩とデートしているのになんで・・・。
私たちは初めに渋谷駅の映画館で、私が気になっていたホラー映画を見た。ホラー映画は滅多に見ないが、そのホラー映画はエストレージャのミュージックビデオに出演していた俳優が主役を演じており、見てみたかったのを川口先輩に話したら、「柚桜が見たいものみよう!」と笑って言ってくれたのだ。
その後は渋谷駅から原宿まで歩いてスイーツ食べ放題のカフェに行った。歩いている道中はほとんど部活の話をしていた。
そして玲衣奈の話題も出た。玲衣奈は台本選考会でのことをすごく心配してくれていて、どうしたら私が元気出るか川口先輩に相談してくれていたそうだ。玲衣奈は私が思っていた以上に優しいし、友達の好きな人をとろうなんて考えるような子じゃないのに、そんな玲衣奈を私は疑ってしまった。冷静になって考えてみれば分かることなのに分からなかったのは、大事なところが私には見えていなかった。“恋は盲目”と誰かが言っていたけれど、本当にそうなのかもしれない。
自分のそんな短所に気づき反省していると、川口先輩は話題を変えた。
「そういえば、柚桜は最近もエス・・トレージャ?だっけ?今もハマっているの?」
「あ、はい!かなりハマってしまっています。最近新曲も出て、握手会に行くためにお小遣い貯めてCD買っています。」
「そうなんだ!柚桜、お誕生日も近いし、誕プレってことでCD買ってあげても良いよ?」とまさかの提案をされる。川口先輩が私ののお誕生日を知っていたなんて驚きすぎる。自分のお誕生日を教えたこともなかったのに。でも好きな人に自分のお誕生日をしてもらえていて、さらに誕プレを買おうとしてくれただなんてこの上ない幸せすぎるんじゃないだろうか。でも、そんな幸せな思いに浸っていてもあいつの顔が思い浮かんでくる。新谷だった。
新谷とその友人の近藤は同じエストレージャのファンでよく新曲の話やライブの話に音楽番組の話などで大いにいつも盛り上がる。3人で大好きなエストレージャの話をする時間は楽しくて密かに毎日の楽しみでもあった。エストレージャは今や国民的アイドルグループになりつつあるし、クラスメイトの中でもいわゆる新規ファンが少しずつ増えてきているが、新谷と近藤はかなりマイナーな曲も分かっているし話していてすごく楽しい。
玲衣奈とまだ喧嘩していて図書室に駆け込み、エストレージャのベストアルバムを聴いていた日のことを思い出す。新谷は隣に座り真剣に私の話を聞いてくれた。新谷はいつだって距離が近いしふいにドキッとしてしまうこともある。新谷は、新谷は____。
「柚桜?聞いてる?」ハッとした。何、私___。なんで川口先輩とせっかくのデートなのに新谷のことばかり考えているんだろう。
「あっすみません。ボーっとしてました。」
「疲れちゃった?もうすぐ柚桜が言っていたスイーツのカフェ着くけど、そこのベンチで休憩する?」
「いえいえ!大丈夫です!早くいきましょう!混んでいる時は行列すごいらしいですし!」
つい、焦って川口先輩の手を引いた。大好きな人の手。私より大きくて、私より指が長くて、綺麗な手。この手といつか私の手が交わる日を夢見ていた。でも、今はそれほどドキドキはしなかった___。