君のとなりで

はじまり

薄く差し込む朝の光が、静かなリビングの床を照らしていた。

真衣は家の中で立ち尽くしていた。
静かな空間。

「……このソファの上で、ママと映画見たな」

「パパが作ってくれたホットチョコレート、ここでよく飲んだっけ……」

ひとつひとつ、思い出がフラッシュバックする。

真衣はゆっくりと家の中を歩き始めた。

キッチン、リビング、階段、パパとママの寝室、自分の部屋。
そのどこにも、笑顔や涙、温もりが詰まっていて、胸がぎゅっと苦しくなる。

そして玄関へ戻ってきたとき——

ピンポーン。

インターホンが鳴った。

真衣は、ほんの一瞬だけ目を閉じて、深呼吸をひとつ。
扉を開けると、そこに立っていたのは茉里おばさんだった。

「真衣!」

茉里は真衣を強く抱きしめた。

あたたかくて、少し香水の匂いがして、でもどこか母に似た安心感があった。

つい最近、両親を事故で失った。親戚もいない私を引き取ってくれたのが、母の親友である茉里だった。

「ごめんね、待たせちゃったわよね」
「ううん……来てくれてありがとう」

真衣は肩にショルダーバッグを掛け、キャリーケースの取っ手を握った。

ちゃんと前に進まなきゃ


振り返って、最後にもう一度だけ見つめた、思い出だらけの家。

「さよなら」

真衣は小さくそう呟いて、茉里おばさんと一緒に玄関を出た。
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