0.14(ゼロ・フォーティーン)
第4章 仮面の夜
《視点:春川 レオ》
《夜の街ってのは、嘘が正解になってく場所だ。》
《誰も本当の名前なんか言わねぇし、誰かの涙も、誰かの嘘も、光と音に紛れて消える。》
《でも、あの夜──“あれ”だけは、本物だった。》
*
歌舞伎町。午前3時30分。
ラストオーダーの時間が近づいていた。
店内には、シャンパンのボトルが数本並び、乾いた笑い声が天井に跳ねていた。
春川レオは、その真ん中で、完璧なホストを演じていた。
「お姫、今日も世界で一番美しいよ」
「えーまた言ってる〜」
「いや、今日は昨日より1.3倍くらいだね」
数字で言えば、今夜の売上は50万。
“勝ち”だ。
だが、心のどこかで落ち着かなかった。
──数日前から、街の空気が変わっていた。
深夜でも誰かが見てるような視線。
常連が一人、また一人と、来なくなる。
警察も来ない。トラブルもない。
ただ、妙な沈黙だけが増えていた。
そんな空気の中、レオが出会った。
──“あの女”。
それは、終電も過ぎた路地裏。
シフトを終えて、タバコを吸いながらスマホを見ていたときだった。
「ねえ、あなた──明日、殺されるわよ」
暗がりから声がした。
振り返ると、そこには、真っ白な能面をつけた女が立っていた。
パーカーにロングスカート。
左手にスマホ。右手は……ポケットに入っていた。
「なんだよ、脅しか?」
「違うわ。……助けたかったのよ、本当は」
その声には、どこか“迷い”があった。
レオは一歩近づき、問いかけた。
「何者だよ、あんた。ヒマつぶしで人をビビらせてんのか?」
その瞬間──
女は右手を見せた。
そこには、真っ赤なUSBメモリが握られていた。
メモリには、落書きのようなマーク。
小さなひよこのイラスト。
目に×印が描かれている。
「“彼女”は殺された。でも、あれは……始まりに過ぎない。
あなたは、“次”なの」
「……彼女って、誰のことだ」
そう聞いたときには、女はもう走り出していた。
誰にも止められないスピードで、夜の歌舞伎町に溶けていった。
レオは、あの夜のことを誰にも話せなかった。
嘘の街で、本当の話をしても、信じてはもらえない。
──だが翌日、
ヒヨコ☆ちゃんが死んだという“噂”を耳にした。
そして手元のスマホには、なぜか未読のメッセージが1件残っていた。
送信者不明。
内容はただひとこと──
「USBを、黒木 湊に届けて」
……誰だ、そいつは。
そもそも、なぜ俺の名前を知ってる?
なぜ俺にこんなものを渡そうとした?
なんで“俺が次”なんだ?
夜が明ける前、レオはタバコを投げ捨てた。
震える手をズボンのポケットに入れ、USBを握りしめながら、ポツリとつぶやいた。
「俺は──巻き込まれたのか。
それとも、最初から“選ばれてた”のか」
《真実は、仮面を被って近づいてくる。
剥がさなきゃ、わからないまま終わる。
でも、剥がしたところで──もっと怖いものが現れるかもしれない。》
──第4章、了。
《夜の街ってのは、嘘が正解になってく場所だ。》
《誰も本当の名前なんか言わねぇし、誰かの涙も、誰かの嘘も、光と音に紛れて消える。》
《でも、あの夜──“あれ”だけは、本物だった。》
*
歌舞伎町。午前3時30分。
ラストオーダーの時間が近づいていた。
店内には、シャンパンのボトルが数本並び、乾いた笑い声が天井に跳ねていた。
春川レオは、その真ん中で、完璧なホストを演じていた。
「お姫、今日も世界で一番美しいよ」
「えーまた言ってる〜」
「いや、今日は昨日より1.3倍くらいだね」
数字で言えば、今夜の売上は50万。
“勝ち”だ。
だが、心のどこかで落ち着かなかった。
──数日前から、街の空気が変わっていた。
深夜でも誰かが見てるような視線。
常連が一人、また一人と、来なくなる。
警察も来ない。トラブルもない。
ただ、妙な沈黙だけが増えていた。
そんな空気の中、レオが出会った。
──“あの女”。
それは、終電も過ぎた路地裏。
シフトを終えて、タバコを吸いながらスマホを見ていたときだった。
「ねえ、あなた──明日、殺されるわよ」
暗がりから声がした。
振り返ると、そこには、真っ白な能面をつけた女が立っていた。
パーカーにロングスカート。
左手にスマホ。右手は……ポケットに入っていた。
「なんだよ、脅しか?」
「違うわ。……助けたかったのよ、本当は」
その声には、どこか“迷い”があった。
レオは一歩近づき、問いかけた。
「何者だよ、あんた。ヒマつぶしで人をビビらせてんのか?」
その瞬間──
女は右手を見せた。
そこには、真っ赤なUSBメモリが握られていた。
メモリには、落書きのようなマーク。
小さなひよこのイラスト。
目に×印が描かれている。
「“彼女”は殺された。でも、あれは……始まりに過ぎない。
あなたは、“次”なの」
「……彼女って、誰のことだ」
そう聞いたときには、女はもう走り出していた。
誰にも止められないスピードで、夜の歌舞伎町に溶けていった。
レオは、あの夜のことを誰にも話せなかった。
嘘の街で、本当の話をしても、信じてはもらえない。
──だが翌日、
ヒヨコ☆ちゃんが死んだという“噂”を耳にした。
そして手元のスマホには、なぜか未読のメッセージが1件残っていた。
送信者不明。
内容はただひとこと──
「USBを、黒木 湊に届けて」
……誰だ、そいつは。
そもそも、なぜ俺の名前を知ってる?
なぜ俺にこんなものを渡そうとした?
なんで“俺が次”なんだ?
夜が明ける前、レオはタバコを投げ捨てた。
震える手をズボンのポケットに入れ、USBを握りしめながら、ポツリとつぶやいた。
「俺は──巻き込まれたのか。
それとも、最初から“選ばれてた”のか」
《真実は、仮面を被って近づいてくる。
剥がさなきゃ、わからないまま終わる。
でも、剥がしたところで──もっと怖いものが現れるかもしれない。》
──第4章、了。