天才画家に描かれて、毎晩とろけそうです ―スイートルームで始まる、芸術と恋の独占契約
第1話 投げ飛ばした男は、世界的天才画家でした
22時の裏通り。
人気のないその場所で、咲良はひときわ怪しい気配を捉えていた。
──スプレーの音。
──壁に向かって何かを描く、フードの男。
(何してんの、こんな時間に……)
街の壁に堂々と落書き?
そのスプレー缶の動きが、やけに滑らかだったことも気になった。
でも、そんなことより──
「こらッ、そこ止まりなさい!」
気づけば身体が動いていた。
タッと駆けて、一瞬で男の肩をつかむ。
驚いたように振り向いたその顔を確認する暇もなく、咲良は反射的に技をかけた。
「──背負い投げッ!」
男の身体が宙に舞い、きれいに地面に叩きつけられた。
ドスンという音と、鈍いうめき声が響いた。
「……うっ……あ、痛……」
(やった……成敗、完了)
そう思って、気を引き締めた咲良だったが──
「……あれ?」
よく見ると、男はフードの奥から苦痛にゆがんだ顔を覗かせていた。
(あ……やりすぎた?)
見れば、彼の左腕が変な方向に曲がっている。
「えっ、ちょ、うそ、折れた……? 嘘でしょ!?」
さっきまでの気合いが一気に霧散する。
しゃがみこんで彼の顔を覗き込むと、その視線がまっすぐに咲良をとらえた。
そして、彼は言った。
「……トレビアン。美しい」
「……は?」
痛みに顔をしかめたまま、それでも、彼の目は驚くほど真剣だった。
人気のないその場所で、咲良はひときわ怪しい気配を捉えていた。
──スプレーの音。
──壁に向かって何かを描く、フードの男。
(何してんの、こんな時間に……)
街の壁に堂々と落書き?
そのスプレー缶の動きが、やけに滑らかだったことも気になった。
でも、そんなことより──
「こらッ、そこ止まりなさい!」
気づけば身体が動いていた。
タッと駆けて、一瞬で男の肩をつかむ。
驚いたように振り向いたその顔を確認する暇もなく、咲良は反射的に技をかけた。
「──背負い投げッ!」
男の身体が宙に舞い、きれいに地面に叩きつけられた。
ドスンという音と、鈍いうめき声が響いた。
「……うっ……あ、痛……」
(やった……成敗、完了)
そう思って、気を引き締めた咲良だったが──
「……あれ?」
よく見ると、男はフードの奥から苦痛にゆがんだ顔を覗かせていた。
(あ……やりすぎた?)
見れば、彼の左腕が変な方向に曲がっている。
「えっ、ちょ、うそ、折れた……? 嘘でしょ!?」
さっきまでの気合いが一気に霧散する。
しゃがみこんで彼の顔を覗き込むと、その視線がまっすぐに咲良をとらえた。
そして、彼は言った。
「……トレビアン。美しい」
「……は?」
痛みに顔をしかめたまま、それでも、彼の目は驚くほど真剣だった。
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