天才画家に描かれて、毎晩とろけそうです ―スイートルームで始まる、芸術と恋の独占契約
エピローグ
──パリ、春。
ルーヴル美術館・特設ギャラリー。
名だたる巨匠の名が刻まれた歴史ある展示室の最奥に、ひときわ異彩を放つ大作が飾られていた。
世界各国の報道陣、文化人、セレブリティがそこに集う。
「21世紀最大の愛の肖像」「見る者の魂を浄化する光」──そんな賛辞が、幾千もの言語で語られていた。
タイトルは──
《Muse éternelle(永遠のミューズ)》
キャンバスに描かれているのは、一人の女性。
黒髪を緩やかに結いあげ、上品な和装に身を包み、背すじをすっと伸ばしてこちらを見つめている。
その瞳は、何も語らず、すべてを包む。
やわらかな桜色の背景は、春霞のように揺らめき、鑑賞者を夢の中へ誘う。
──レオン・S・モントレー。
世界的アーティストであり、覆面時代の伝説を経て、真の名と素顔を明かした男が、
“たったひとりの愛”をテーマに描いた記念碑的作品。
「モデルとなったのは誰か」
「この愛の結晶は、誰に向けられたものか」
そんな問いのすべては、画家の一言によって沈黙する。
「彼女は、僕の生涯のミューズだ。世界の美しさそのもの──僕は、命ある限り彼女を描き続ける」
その愛が、本物だったからこそ──
この絵は、世界中の心を震わせる「証明」になった。
***
ギャラリーの閉館時間を知らせるベルが鳴る。
そっと絵の前に立つ、ひとりの影。
「咲良」
その呼びかけに、絵のモデルは振り返った。
本物の咲良。
淡い桃色の訪問着をまとい、絵の中と同じ指輪を光らせている。
あれから何年経っても、その背筋の美しさは変わらない。
レオンが彼女のそばに近づく。かすかに風が吹き抜けたかのような沈黙。
だが、その静けさの中には、確かに言葉を超えた想いが満ちていた。
「どうだった?」
「……綺麗だった。レオンのなかの私って、こんなふうなんだって」
彼女は照れたように、けれど誇らしげに微笑む。
「君は、世界の美しさそのものだ」
レオンの声は囁きにも似ていた。けれど、胸の奥まで届く、確かな響きを持っていた。
咲良は、少しだけ目を伏せて笑った。いつものように、照れ隠しのように、冗談を添える。
「美しさには──『鍛錬』が必要だね」
その瞬間、レオンの瞳にふっと光が差し込んだ。
「その通りだ。だけど──君の強さも、優しさも、すべてがもう、完璧なんだ。誰がなんと言おうと、僕にとっての美しさの定義は……君なんだよ、咲良」
次の瞬間、言葉がいらなくなった。
ふたりはそっと歩み寄り、まるで引き寄せられるように、抱きしめ合う。レオンの腕が咲良を包むと、咲良の頬が彼の胸にそっと預けられた。
静寂のギャラリー。
壁に飾られた虹色の絵たちが、まるでふたりの未来を彩るカーテンのように寄り添っていた。
ルーヴル美術館・特設ギャラリー。
名だたる巨匠の名が刻まれた歴史ある展示室の最奥に、ひときわ異彩を放つ大作が飾られていた。
世界各国の報道陣、文化人、セレブリティがそこに集う。
「21世紀最大の愛の肖像」「見る者の魂を浄化する光」──そんな賛辞が、幾千もの言語で語られていた。
タイトルは──
《Muse éternelle(永遠のミューズ)》
キャンバスに描かれているのは、一人の女性。
黒髪を緩やかに結いあげ、上品な和装に身を包み、背すじをすっと伸ばしてこちらを見つめている。
その瞳は、何も語らず、すべてを包む。
やわらかな桜色の背景は、春霞のように揺らめき、鑑賞者を夢の中へ誘う。
──レオン・S・モントレー。
世界的アーティストであり、覆面時代の伝説を経て、真の名と素顔を明かした男が、
“たったひとりの愛”をテーマに描いた記念碑的作品。
「モデルとなったのは誰か」
「この愛の結晶は、誰に向けられたものか」
そんな問いのすべては、画家の一言によって沈黙する。
「彼女は、僕の生涯のミューズだ。世界の美しさそのもの──僕は、命ある限り彼女を描き続ける」
その愛が、本物だったからこそ──
この絵は、世界中の心を震わせる「証明」になった。
***
ギャラリーの閉館時間を知らせるベルが鳴る。
そっと絵の前に立つ、ひとりの影。
「咲良」
その呼びかけに、絵のモデルは振り返った。
本物の咲良。
淡い桃色の訪問着をまとい、絵の中と同じ指輪を光らせている。
あれから何年経っても、その背筋の美しさは変わらない。
レオンが彼女のそばに近づく。かすかに風が吹き抜けたかのような沈黙。
だが、その静けさの中には、確かに言葉を超えた想いが満ちていた。
「どうだった?」
「……綺麗だった。レオンのなかの私って、こんなふうなんだって」
彼女は照れたように、けれど誇らしげに微笑む。
「君は、世界の美しさそのものだ」
レオンの声は囁きにも似ていた。けれど、胸の奥まで届く、確かな響きを持っていた。
咲良は、少しだけ目を伏せて笑った。いつものように、照れ隠しのように、冗談を添える。
「美しさには──『鍛錬』が必要だね」
その瞬間、レオンの瞳にふっと光が差し込んだ。
「その通りだ。だけど──君の強さも、優しさも、すべてがもう、完璧なんだ。誰がなんと言おうと、僕にとっての美しさの定義は……君なんだよ、咲良」
次の瞬間、言葉がいらなくなった。
ふたりはそっと歩み寄り、まるで引き寄せられるように、抱きしめ合う。レオンの腕が咲良を包むと、咲良の頬が彼の胸にそっと預けられた。
静寂のギャラリー。
壁に飾られた虹色の絵たちが、まるでふたりの未来を彩るカーテンのように寄り添っていた。


