【番外編】過保護な医者に、今度は未来まで守られてます

話題の姫と王子様!?

薄曇りの午後。
外来フロアの一角にあるリハビリ室には、軽快な音楽とランニングマシンの低い駆動音が響いていた。

「……ぜえ……はぁ……」

トレッドミルの上で、雪乃は額に浮かぶ汗を手の甲でぬぐいながら、何度目かのため息をつく。
歩いているだけなのに、足が思うように前に出ない。
呼吸も心拍も、予想以上にきつい。

(なんでこんなにしんどいの……)
(手術は成功したって言ってたのに……)

そんな愚痴が喉元まで上がってきては、また引っ込んでいく。
理学療法士の女性――小泉 真帆(こいずみ まほ)が、モニターを確認しながら声をかけた。

「雪乃さん、大丈夫ですか? 心拍数はいい感じですよ。もう少し頑張れそうですね」

「うぅ……それ、たぶん励ましになってないです……」
雪乃は苦笑を浮かべながらも、どこか本気で弱音を漏らした。

そこへ、ガラス越しの向こうから誰かが手を振る。
白衣のポケットに両手を突っ込んで、飄々と入ってきたのは――

「おー、頑張ってる頑張ってる。偉いねぇ、雪乃ちゃん」
滝川先生だった。

「……なにしに来たんですか」
息が上がりながらも、雪乃が睨むように言う。

「見学。っていうか応援? それとも、からかいに来たって言ったほうが正解かな」

いつものおちゃらけた笑みで滝川がウィンクをする。
小泉が軽く会釈して報告を入れる。

「術後の経過は順調ですけど、やはりまだ体力は戻りきっていませんね。退院してひと月、これからが本番ってところです」

「なるほどなるほど。……にしても、しんどそうだなぁ。やめとく? リハビリ」

「や、やめませんけど……!」
悔しいけど、図星だったからムキになる。

滝川はにやにやしながら、ふと思いついたように言った。

「じゃあさ。神崎先生に、応援に来てもらおっか?」

雪乃の顔が、ほんの少しだけ赤くなる。

「……別に、来なくていいです」
「おやおや、素直じゃないなぁ〜」
「うるさいですっ」

笑い声と、雪乃の短い怒号。
小泉が肩を震わせて笑いをこらえながら、「さ、次のセット行きますよ」と告げた。

心臓のリズムは少しずつ整い、体力もゆっくりと戻っていく。
いつかこのきつさも、今日の自分を支える力になる――
雪乃は、そう思えたような気がした。
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