【番外編】過保護な医者に、今度は未来まで守られてます
カンファレンス室を後にし、神崎は一人で静かな廊下を歩いていた。
白衣のポケットに手を入れ、ゆっくりと足を運ぶ。
昼の合間、病院の廊下には珍しく人の気配が薄かった。

ふと立ち止まり、窓の外に目をやる。
淡く色づき始めた桜のつぼみ、陽射しの柔らかさに、冬の名残がようやく消えつつあることを感じさせる。

「……春だな」

ぽつりと、独り言のように呟いた声が、誰もいない廊下に溶ける。

――一年が経った。
あの夜、彼女が突然目の前に現れて。
傷だらけで、それでも必死に生きていたあの姿。

たくさんのことがあった。
病気のこと、手術、リハビリ、仕事、そして――
一緒に笑った日々も、泣いた夜も。
全てを経て、今、彼女は前を向いて歩いている。

胸の奥に、じんわりと熱いものが込み上げてきた。
ぼんやりと視界が滲む。
こんなとき、自分がどれほど彼女に救われてきたのか、思い知らされる。

だが、そのまま感傷に浸るわけにはいかない。
神崎はまぶたを瞬かせ、わずかに首を振った。

そして、再び歩き出す。

彼女が強くなった分、自分も強くなりたい――そう思いながら。
春の陽射しに背を押されるように、彼の足取りは次第に力を取り戻していった。
< 35 / 44 >

この作品をシェア

pagetop