氷壁エリートの夜の顔
 私が頷くと、彼は立ち上がり、近くにあった厚手のブランケットを私の肩にかけてくれた。

 バルコニーに出ると、凛とした冷たさを帯びた11月の空気が、肌に優しく触れた。
 空には、輪郭のくっきりした月が高くのぼっていて、その光が、夜を銀色に染め上げている。

 遠くで虫の声がかすかに響いているだけの、澄んだ静けさに包まれた夜だった。

「寒くない?」

「ブランケットがあるから大丈夫。結城さんは?」

「冷えた空気が、むしろ気持ちいい」

 彼の声はいつもと変わらないのに、どこか、静かな熱を含んで聞こえた。

 けれどその直後、風がふわりと吹いて、ブランケットの隙間から冷気が肌を撫でる。
 もし寒かったら、このブランケットをシェアしても……一瞬そう思って、視線を落とした。そんな距離を縮める勇気は、まだ持てない。

「さっきのプリン、自分のレシピ?」

 結城さんがふいに話題を変える。私は笑って、首を横に振った。

「そんな、たいそうなものじゃないよ。昔から何度も作ってるの。少ない材料でたくさんできるし──柚月と律希なんて、ほとんどあのプリンで育ったようなものだから」
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