氷壁エリートの夜の顔
……だけど実際、今の状態で「恋を満喫」なんて、どうすればいいのだろう。
考える間もなく、仕事は次から次へとやってくる。
「桜さん、富山の出張レポートですが、ブランドストーリーの初稿に落とし込んでも大丈夫ですか?」
「はい、こちらにまとめてあります。ターゲット層ごとの感度と、ヒアリングの要点も入れました」
結城さんとは、そんなやりとりを終日繰り返している。このどこに、恋の気配が入り込む余地があるというのか。
いや、もともと結城さんは、業務時間内に私的なやり取りなんてしないタイプだ。
だから、きっと退勤後に連絡がくるものだと、自分に言い聞かせる。
けれど、スマホの通知はずっと沈黙を保っていた。
これが仕事なら──私は迷わず自分から連絡を入れていただろう。
小さなズレも見落とさず、軌道修正して、最善の形に持っていく。それが、私のパートナーシップの定義だった。
だけど、これは仕事じゃない。
嫌な予感がした。
もし──結城さんが、あの夜のことを「なかったこと」にしたいと思っていたとしたら?
「……その可能性、か」
スマホを見つめながら、小さくつぶやく。
喉の奥に、拭えないざらつきが残っていた。
考える間もなく、仕事は次から次へとやってくる。
「桜さん、富山の出張レポートですが、ブランドストーリーの初稿に落とし込んでも大丈夫ですか?」
「はい、こちらにまとめてあります。ターゲット層ごとの感度と、ヒアリングの要点も入れました」
結城さんとは、そんなやりとりを終日繰り返している。このどこに、恋の気配が入り込む余地があるというのか。
いや、もともと結城さんは、業務時間内に私的なやり取りなんてしないタイプだ。
だから、きっと退勤後に連絡がくるものだと、自分に言い聞かせる。
けれど、スマホの通知はずっと沈黙を保っていた。
これが仕事なら──私は迷わず自分から連絡を入れていただろう。
小さなズレも見落とさず、軌道修正して、最善の形に持っていく。それが、私のパートナーシップの定義だった。
だけど、これは仕事じゃない。
嫌な予感がした。
もし──結城さんが、あの夜のことを「なかったこと」にしたいと思っていたとしたら?
「……その可能性、か」
スマホを見つめながら、小さくつぶやく。
喉の奥に、拭えないざらつきが残っていた。