氷壁エリートの夜の顔
 今の私は、誰かの手を──ましてや、ほかに恋人がいる人の手を、借りる資格なんてない。

 あの夜のことは心の奥に大切にしまい込んで、もう触れないと決めた。
 だから、今は……迷惑をかけずに、淡々と自分の仕事を果たすこと。それが、今の自分に課した、小さなけじめだった。

 私は、短く返した。

『ご連絡ありがとうございます。承知いたしました。修正については、こちらで対応いたします。』

 それから画面を閉じ、深く、静かに息をついた。

* * *

 お昼休みは、少し時間をずらすようになった。
 美玲に、余計な心配をさせたくなかったからだ。

 食欲は落ちていて、できることなら食べずに済ませたかった。
 テーブルの上に、コンビニのおにぎり2つとエナジーバー。
 毎朝お弁当を詰めていた日々が、遠い昔のことのように感じられた。

 古美多も、ずっと休ませてもらっている。
「うちの姉が来てくれるから大丈夫よ」と京花さんが言ってくれて、それに甘えることにした。

 料理する時間と、古美多の賄いがなくなったので、食事はただのカロリーを摂取するための行為になった。
 点滴かポーションで生きていけるなら、それでもいい。そんな気分だった。
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