氷壁エリートの夜の顔
「朝ごはんを作ろうと思って冷蔵庫開けたら、食材がなかったんだ。だからコンビニに」

 私は慌てて言い訳する。

「最近、ゆっくり食事をする時間がなくて、おにぎりとかエナジーバーでしのいでたから……」

 彼は笑いながら、軽く頷いた。

「知ってる。次回は俺が朝食を作ってあげるよ」

 そう言って、テーブルにおにぎりとサンドイッチを並べ、お湯を沸かし始めた。
 その背中に、私はそっと声をかける。

「あの、結城さん。この間のこと、ごめんなさい」

 彼はドリップの手を止め、「ん?」と振り返った。

「さっき目が覚めて、結城さんがいなくて……ちょっと焦ったの。ついに現実と妄想の境目が壊れたんじゃないかって」

 私はローテーブルの上で手を組み、深く息をついた。

「戻ってきてくれて、本当に嬉しかった。それでこの前、私が黙って帰ったとき、結城さんも『全部妄想だったんじゃないか』って思ったかもしれないなって。……だから、ごめんなさい」

 言い終えた瞬間、彼はこらえきれないように吹き出して、声を上げて笑った。

「ちょっと、人が真面目に話してるのに……!」
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