氷壁エリートの夜の顔
「東條さん。ご自身の立場を、今一度お考えください」

 その声は凍てつくように冷ややかで──まさに、氷のナイフのようだった。

「あなたは、『何も言われなかったから終わったと思った』と仰いましたが、それは通用しません。養育費は、直近10年分の請求が可能です」

 東條氏が顔を引きつらせる。

「それに──御社の理念は『人に優しい経営』でしたよね? そんな企業の役員であり、経済界の良心とまで称されるあなたが、実の子どもへの責任を放棄していたと知られたら……世間は、それをどう受け止めるでしょうか」

 一拍置き、彼は静かに微笑んだ。

「『余裕がないときに、誰かのために動けるかどうかで人は試される』──インタビューで、あなたはそう語っていました。そして今のあなたには、経済的にも時間的にも十分な余裕がある。今こそ、有言実行なさってはいかがでしょうか?」

 その言葉に、東條氏の視線がほんの一瞬泳いだ。

「……払えばいいんだろ」

 彼は、吐き捨てるようにそう言った。
< 192 / 206 >

この作品をシェア

pagetop