氷壁エリートの夜の顔
 そして驚いたことに、さらに翌日、日曜の夜にも彼は現れた。

 頼んだのは、ビールとお刺身盛り合わせ定食、そして柿ようかん。
 違ったのは、柿ようかんの頼み方だった。

「今日は、端っこじゃないところでいいよ。俺が全部取ったら、他のお客さんに悪いし」

 そう言って、視線を逸らす。その横顔には、ちょっとだけ照れたような影が見えた。

──やっぱり、優しい人じゃん。

 特定の誰かを喜ばせたいわけじゃなくて、顔の見えない誰かを、自然に思いやれる人。
 そんな人が、本当に冷たいわけがない。

 ……とはいえ、私に対しては、やっぱりどこかよそよそしいままだった。

 彼はいつも開店と同時に店に入り、料理が運ばれてくるまでは静かに本を読んでいる。
 話しかけられれば答えてくれるけれど、祐介くんや他の常連さんに見せるような砕けた笑顔は、まだ私には向けられたことがない。
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