極道家の花の姫は最強女総長様
転入初日は不穏の始まり
「おはよ、彼岸」
優しい、聞き慣れた声が扉越しに聞こえる。
私のよく知る、大好きな声。
「おはよう!刹那!入って良いよ!」
ガチャリ、と扉が開くと少し気怠げな表情をした清潭な顔立ちの少年が遠慮気味に入ってくる。
彼は皇牙 刹那、昔からの幼馴染で私が総長をしてる暴走族、Lycorisの副総長。
そして、私の父……如月 元が組長の世界一の極道家、如月組の若頭。
刹那のお父さんが如月組の元幹部だった事もあって、兄妹みたいに育てられてきた。
「準備出来たか?」
「流石に出来たよ!子供じゃないし……ちゃんと栞だって持ったもん」
小さい頃、本当に特別な花があった。彼岸花なんだけど……私にとってお姉ちゃんみたいな花なんだ。
ずっと私と刹那を守ってくれた特別な花。
でも、私が生まれるずっと前から生えてて数年前枯れそうになっちゃったの。
だからどうしてもお別れしたくなかった私は、その彼岸花を押し花にして栞としてお守りにしたんだ。
『クラスメイトと仲良くなれると良いね、彼岸!』
「うん!」
「……綺羅さんか?」
「そうだよ!クラスメイトと仲良く出来ると良いねって!」
「そうか……彼岸の事は俺が守ります。声は聞こえないけど……心配しないでください」
『……そっか、刹那は頼もしいなぁ』
「……ふふっ!」
私は昔から、自然の声が聞こえた。だから誰よりも自然を大切に、愛するようになった。
当然、大切な彼岸花の声だって聞こえる。だから”お姉ちゃんみたい”な彼岸花なんだ!
ただ彼岸花はお花自体の名前だから……私は綺羅って名前を付けた。
刹那もこの力は知ってるから、何時も綺羅さんの声を私が代弁して会話してるの!
『彼岸、緊張せずに話せそう?ちゃんとクラスメイトと仲良くなれる?』
「大丈夫だって!綺羅さんは過保護だなぁ」
そう、今日は転入初日。
お父さんの弟、私の叔父さんにあたる人、蛍月 御言さんが理事長をしてる蛍月学園って所が転入先。
刹那”達”も蛍月学園に通ってて、ずっと私も通いたかった所。
ただ暴走族に入ってる人が多くて中々心配性のお父さんを説得させられなかった。
だけど中学に上がってから3年間頑張って説得した結果、良いって言って貰えたの!
だから転入にはなるけど今日から私は晴れて蛍月学園の生徒だ。
「彼岸、そろそろ時間が」
「え!?嘘!?」
「本気だ、ほら」
「……本気かぁ!急いで行こう!」
ヤバいなぁ……7時30かぁ……全力ダッシュで間に合うかなぁ……?
とにかく早く出ないと……転入初日から遅刻だけは嫌だ……!
「「___行ってきます!」」
刹那と声が合う。そして正面を向いて玄関に背を向けると、とても大きな声が帰ってきた。
「「「「「「「行ってらっしゃいやせ!若!彼岸嬢!!!」」」」」」」
「ははっ」
皆、相変わらず声が大きいなぁ!!
それじゃあ皆、行ってきます。綺羅さんも、行ってきます!