サルビアの育てかた
「ロイは頼りになるお兄さんだから、わたしも甘え過ぎちゃったわね」
「その、お兄さん呼ばわりするのも止めてほしい。ボクはみんなの兄じゃないんだから」
「でも、ここで一緒に暮らしているうちは家族みたいなものよ」
「家族だなんて、そんな風に全然思えないよ」

 終始冷めた態度でロイはそんなことを言うが、シスターは決して怒る様子もなく落ち着いた口調を崩さない。

「分かったわ、わたしがあの子たちに言い聞かせるわ。ごめんなさいね、ヒルス。わたしはこれにて失礼します」
「いえ、俺の方こそ。お忙しい中、ありがとうございました」
「またいつでも来てください」と言い残し、シスターは教会から立ち去っていく。

 時間を確認すると、十九時を回っていた。レイの仕事が終わるまであと一時間ほどだ。

「ロイは戻らなくていいのか? 夕飯の途中だったんだろ」
「そうなんですけどね。はあ。ヒルス先生にはみっともないところを見せてしまいました。すみません」
「みっともないって?」
「ここにいる時と、スタジオにいるボクは話しかたが全然違います。驚かせてしまったんじゃないかなって」

 ロイは俯きながら、どこか恥ずかしそうにしている。
 そんな彼を見て俺はフッと微笑む。

「それほどロイにとって、ここが落ち着く場所だってことだろう」
「えっ」
「誰だって外にいる時と家にいる時の態度は変わるはずだよ。ロイにとっては孤児院(ここ)が憩いの場所なんだな」
「いえ。先生、それは違います」
「何が違うんだ?」
「ボクには家もありませんし家族もいません。憩いの場所でもありません。ただ仕方がなくここで暮らしているだけなんです。早く独り立ちしたいくらいですよ」

 もう一度深くため息を吐くロイの顔は【無】に近い。

 ──意外に素直じゃない奴だな。
 俺は密かにそう思う。
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