サルビアの育てかた
「レイ」

 ひとまず俺は、眠り続ける彼女に優しく声を掛ける。

「着いたよ」
「……」

 なかなか彼女は目覚めなかった。いつも日付が変わる頃には就寝しているから仕方がない。時刻は既に深夜一時を回っている。

 無防備に眠り続けるレイの寝顔は綺麗だ。俺は彼女の頬に触れてそっと撫でてみる。

「……ううん……」

 小さく声を漏らし、レイの瞼が微かに動き始める。

 ──彼女が目を覚ます前に。俺は衝動的に、レイの唇に覆いかぶさった。
 恐怖なんて忘れたい。消し去りたい。寝顔すらも美しい彼女に熱い愛を重ねるだけで、俺の意識は全てをレイに集中させられるんだ。

 息が苦しくなるほどに、俺は溢れる想いを愛しい人にキスという形で伝えようとしていた。眠れるレイをこうやって目覚めさせることが出来るのは、他の誰でもない。この俺だけだ。

「……んん」
「レイ、起きたか」

 ゆっくりと目を開くレイは、掠れた声を漏らした。

「う、うん……。あの、ヒルス……」
「どうした。やめないよ」

 うっとりしたような瞳で、レイはじっと俺の顔を見つめてくる。
 溶けてしまいそうだ。
 たまらず俺は何度も何度も彼女に深いキスを落としていく。
 レイは俺の肩に両手を回し、頬を濃いピンク色にしながら囁いた。

「やめないで、もっとして……」

 その台詞を聞いた瞬間、俺の胸がありえないほどに高鳴った。
 やっぱりレイは魔法を持っているんだ。ついさっきまで俺はあんなに震えていたのに。彼女との愛を交わすだけで、こんなにも安らぎを感じられる。
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