暇な治療院
 あのコロナが流行った時、コロナ患者を受け入れたのは大病院だった。
多く存在するはずの個人病院は儲けが減ることを恐れて受け入れを拒否した。
 だから大病院は死ぬほどに苦労したんだよね。 天手古舞どころじゃなかった。
個人病院の連中はしぶしぶ受け入れたみたいだけど遅過ぎたよね。
 あの当時、マッサージ師も大変だった。
昔ながらの知事免許で営業している人たちには休業要請と休業補償が出された。
でも国家資格で営業してる人たちには何も無かった。 開店休業に追い込まれても何も無かった。
それで失業したって何も無かった。 ぼくだってそうだったよ。
 患者さんに一人でも感染者が出れば即終了。
もちろん、ぼくらが感染しても即終了だ。
 しかもコロナワクチンを巡っては「あんたらは医者でもないんだから後回しだよ。」って言われ続けたんだ。
余程に免許証を持って殴り込んでやろうかって思ったよ。
 国家資格ってことは立ち位置は医者と同じだからね。
知事免許だったら准看護師と同じレベルなんだ。
 周りの連中に文句を言わせたくなくて国家資格に乗り換えたんだよ。
もちろん、その分に責任も重たくなる。 失敗は許されない。
それだけのことをやってきたんだ。 誰にも恥じないためにね。
 さあ今日も患者さんを待ちましょうか。 ねえ、母さん。
何て言ったら本当に母ちゃんが来た。 「いやいや肩を揉んでくれ。」
「じゃあ1万円ね。」 「親からぼったくる気か?」
「嘘だよ。 親からぼったくれるわけが無いだろう?」 「そうよねえ。 これ以上の親不孝も無いもんねえ。」
「これ以上の子不幸も無いけど、、、。」 「何だって? 文句を言うなら金はあげないよ。」
「金をくれないんだったら揉んでやんねえぞ。」 「分かった分かった。 もう一人連れてくるから揉んでくれ。」
 そうやって今日も親子漫才をしながら揉んでやるんですわ。 ああ、しんど。
帰る時には父ちゃんにビールの一本も差し上げてもらってですねえ、これくらい媚びを打っとかないと次に来なくなるから。
 「うるさいのが帰ったな。 一休みしようか。」 ラジオを点けたら『一休さん』の歌が聞こえてきた。
タイミング良過ぎるだろう? まったく、、、。

 そのまま昼に突入ですわ。 アンパンとカレーパンで昼食にしましょうか。
食パンが有れば揃ったんだけどなあ。 って何がだよ?
 まったくもう、こんな変な世界に生まれたもんだわ。 良かったのか悪かったのかは知らないが、、、。
周りを見渡せばぼくより変な人間ばかり。 ぼくがまともに見えてくる。
 はーーーあ、いっちょ前に嫁さんくらい捕まえたいもんだなあ。 「やれるもんならやってみろ。」
どっかでそんな声が聞こえた。
< 30 / 31 >

この作品をシェア

pagetop