上野発、午前零時
第三話 「公演」
明日香は、いつものようにハロゲンランプの光の下で、新聞の積み替え作業をしていた。
新聞のインクの匂い、トラックのエンジン音、台車の車輪が地面を擦る音。すべてが日常だった。
直樹が新聞の束を差し出しながら言った。
「しばらく、バイト休むよ」
「そう」
明日香は、そっけなく返しながら束を受け取る。何も聞かず、ただ手を動かした。
「再来週の土曜日、僕の劇団『ルミナス』の公演があって、その準備で忙しくなるから」
「ふーん」
それ以上、何も言わなかった。言葉を続ければ、何かを期待しているように思われそうで、黙っていた。
◇◇
第一陣のトラックが去ったあと、直樹がこちらへ歩いてきた。ポケットから何かを取り出している。
「これ、チケット。良かったら見に来て」
明日香は差し出されたチケットに目を落とす。
「午後二時? 行けないよ。まだ寝てる」
「来れたらでいいから」
直樹は少し笑って、軽く押し付けるようにチケットを渡してきた。
明日香は無造作にそれをジーンズのポケットに押し込み、代わりに百円玉を二枚、手のひらに載せて差し出した。
「じゃあ、これでコーヒー買ってきて」
直樹は笑いながら小さく頷き、道路の向こう側へと駆け出していった。
後ろ姿を見送りながら、明日香は無意識に自分のポケットを押さえた。紙の感触が、ほんの少しだけ、いつもより暖かかった。
新聞のインクの匂い、トラックのエンジン音、台車の車輪が地面を擦る音。すべてが日常だった。
直樹が新聞の束を差し出しながら言った。
「しばらく、バイト休むよ」
「そう」
明日香は、そっけなく返しながら束を受け取る。何も聞かず、ただ手を動かした。
「再来週の土曜日、僕の劇団『ルミナス』の公演があって、その準備で忙しくなるから」
「ふーん」
それ以上、何も言わなかった。言葉を続ければ、何かを期待しているように思われそうで、黙っていた。
◇◇
第一陣のトラックが去ったあと、直樹がこちらへ歩いてきた。ポケットから何かを取り出している。
「これ、チケット。良かったら見に来て」
明日香は差し出されたチケットに目を落とす。
「午後二時? 行けないよ。まだ寝てる」
「来れたらでいいから」
直樹は少し笑って、軽く押し付けるようにチケットを渡してきた。
明日香は無造作にそれをジーンズのポケットに押し込み、代わりに百円玉を二枚、手のひらに載せて差し出した。
「じゃあ、これでコーヒー買ってきて」
直樹は笑いながら小さく頷き、道路の向こう側へと駆け出していった。
後ろ姿を見送りながら、明日香は無意識に自分のポケットを押さえた。紙の感触が、ほんの少しだけ、いつもより暖かかった。