イケメンIT社長に求婚されました─結婚後が溺愛本番です!─

○社長夫人、今日も溺愛されてます

「新婚って、いつまで続くの?」

目玉焼きを焼きながら、ふと思った疑問を口にした。

その問いに、ダイニングの椅子で新聞をめくっていた彼──葉山律は、マグカップを片手にこちらを見やる。

「……俺たちは、ずっと新婚でいいと思ってるけど?」

「いや、そういう話じゃなくて……定義的な意味で」

「定義ねぇ……」

栗色の髪をかき上げながら、律は真剣な顔をして考えるふりをする。

「でも、君は毎朝かわいいし。俺は毎晩ドキドキしてるから、やっぱり新婚じゃない?」

「はいはい、ごちそうさま」

ひと呼吸で言ってのけるこの人のことを、私は、朝から何度目かのため息でかわす。

だけど、その言葉に、ちょっとだけ心が緩むのも事実だった。

葉山律。
IT企業『Corven』のCEOにして、私の夫。
完璧主義で、現実主義者で、理屈っぽいくせに、私のことになるとすぐ甘くなる。

交際ゼロ日でプロポーズされ、気づけば結婚して半年。
今は毎日、こうしてふたりで朝ごはんを囲んでいる。

最初は戸惑いだらけだったけど、今は……なんだか、もう、馴染んでしまっていた。

 

「ねえ、律」

「ん?」

「ちょっとだけ、働きたいなって思ってて」

その瞬間。
ナイフとフォークを持っていた律の手が、止まった。

「働くって、どこで?」

「え? どこでって、まだ決めてないけど……たとえば、近所のカフェとか……」

「却下」

「……早っ!」

「外に出すなんて、もったいない」

「わたしは何、秘蔵の壺か何か!?」

「それもいいな。金庫にでも入れておきたい」

「変態!」

私は思わず、焼きたてのトーストを律の皿に押しつけた。

でも──

その瞬間、彼はふっと目を細め、真顔で言った。

「でも……ほんとは、分かってるよ。君がちゃんと自分の足で歩きたがってるってことも」

その低くて、少しだけ寂しげな声に、胸の奥がきゅっとなる。

「だからさ。せめて、Corvenで働かない? 副社長補佐……いや、社長夫人特別補佐として」

「その役職、意味あるの?」

「ない。でも、『君が隣にいてくれる理由』にはなる」

律の茶色い瞳が、まっすぐに私を射抜く。

──ダメだ、やっぱりこの人には敵わない。

(……結婚しても、好きって言われるたびに照れてる私、どうなの)

そんなふうに思いながらも、私は静かにうなずいた。

「……わかった。出戻り、させてください。社長」
< 1 / 34 >

この作品をシェア

pagetop