運び野郎と贋作姫
 今回の模写も時間がかかった。
【群青】はたった二色の絵の具しか使っていないのに、何十色も使っているかのように、グラデーションの幅がものすごい。
 それを、一筆たりとも間違えられない。
 そして、経過年数(・・・・)を加えなければならない。
 百年前に描かれた作品をたった今蘇らせてたからって、テカテカピカピカだと変だから。
 「ふう」
 あとはサインを入れるだけ、となり。
 私はいったん筆を止めた。
 まずは青井宗佑、とサインしようとして。
 ソースケさんも私と同じだと気づく。
 当時の私は「不当」「名前を奪われる」という言葉を知らなかったけれど、それに近い怒りを感じていた。
 私はぽつりと呟く。
 「ソースケさんが可哀想だ」
 「綾華」
 いつのまにか後ろに来た咲良が囁く。
 「本物、ソースケさんのだってわかるようにしておこう」
 「どうやって?」
 「綾華が描いたほうには、ソースケさんのサインを入れないんだ」
 それでどうして本物と区別つくのかわからない。
 けれど、自信たっぷりな咲良に従うことにした。
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