運び野郎と贋作姫
 「ん」
 いかにもサインを塗り潰したように絵の具を重ねたうえに『蒼伊月』と入れた。
 やがて、父は大満足の顔で【群青】を私の部屋から持っていった。
 【群青】を見送っていると、咲良が再び囁く。
 「綾華。俺が必ずこの家からお前を運び出してやる」
 絶対に、と言っているみたいな咲良が好きだった。
 「ん」
 「綾華はこれからガンサクだってわかるように描くんだ」
 ただ、綾香の父(おっさん)にバレないように。
 「どの作品でもいい。すっごい詳しい人が調べたとき、綾華が描いたんだってわかるように」
 違う、って言い張るおっさんを追い詰めるんだ。
 「私の作品」
 ときめいた。
 いわば透明の絵の具で『榊綾華』とサインする。
 私がワクワクしていると、咲良は真剣な顔になっな。
 「綾華」
 咲良の表情に私はどきりとする。
 「だけど、お前を運びだすのは俺達が大きくなってからだ」
 彼の真剣な表情に頷く。
 自分達が非力な子供だと、咲良に逢ったときから気がついていた。
 「おっさんを騙してる間に、俺達は計画を練って金を貯めるんだ」
 咲良は、自分達のしたことについては『脅されて仕方なく』と泣けばいいという。
 確かに、父から脅されている。そのとおりだ。
 「わかった」
 私達は武器(知識)通を手に入れるため、通信教育で高卒の資格を取った。
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