【番外編】孤高の弁護士と誓いの光 — 未来へ紡ぐ約束
ダイニングには、トーストの香ばしい香りと、夏らしいグリーンサラダ。
いつもと変わらない朝食風景――のはず、だった。

けれど紬は、さっきから一言も喋らない。
顔は真っ赤。視線はテーブルの一点を凝視したまま。

「……食欲ないの?」

隼人がコーヒーを啜りながら、わざとらしく尋ねる。

「……あるもん……」
ぽそりと返し、カリカリに焼けたトーストをかじる。

「ふーん……。昨夜の復習、頭の中でリピート再生してるんじゃない?」

ガチャンッ!

紬の手からスプーンが滑り落ちる。
そのまま口をぎゅっと結び、顔を真っ赤にして硬直。

「……うるさいっ……」

「いや、でもさ――」

隼人はコーヒーを置き、わざと低い声で囁く。

「キス、上手にできてたよ」

「~~~~っ!!!」
紬は両手で顔を覆った。耳の先まで真っ赤。

「ちょっと、ほんと黙って! 忘れさせて……!」

「忘れさせない。ちゃんと身についてたし、可愛かったし、こっちはもう何回でも再生したいぐらいだけど?」

にやりと笑う隼人に、紬はバンとトーストを皿に戻す。

「それ、朝から言うことじゃない!!」

「じゃあ、夜言う?」

「言わなくていいっ!!」

二人のじゃれ合いは、いつの間にか時計の存在を忘れさせていた。

ふと、キッチンの時計を見た隼人が目を見開く。

「……やば。紬、あと15分で家出ないと」

「えっ!? うそ、ほんとっ?」

慌てて椅子を引き、歯ブラシ片手に洗面所へ飛び込む紬。
その後ろから、ネクタイを締めながら隼人が追う。

「俺、車で送るから駅まで走んなくていいよ!」

「わかった! その代わり帰りにアイス買ってきてね!」

「交渉成立。でもキスはまた復習するから」

「その話はもうやめてーっ!!」

バタバタと玄関を飛び出す二人。
真夏の朝、ほんの少し汗ばむ風が吹き抜けた。

でもその空気は、どこかくすぐったいほど甘くて――
もう、ずっとこんな日々が続けばいいのに。
そう思わせる、何気ない“いつもの朝”だった。
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