幼馴染は私を囲いたい!【菱水シリーズ②】
しかも、ちょうどいいってなんだ。
他に言いようがあるだろ?
渡瀬はまるで居酒屋にでもいるような態度でフードメニューを食い入るように見ていた。
ここは夜景が見えるホテルのラウンジバー、ブラックを基調とした店内の中心にはグランドピアノが置かれて、キャンドルの灯りが揺れている。
普通なら『素敵なところですね』と一言くらいあるところだろうが、渡瀬には通用しないようだ。
それに加え―――

「フラレたんですか?」

呼んだのは渡瀬だけのはずだった。
それが違う事務所のマネージャー、宰田(さいだ)まで一緒についてきた。

「宰田。俺の精神的なフォローもしろよ」

「すみません。自分の事務所のことで頭がいっぱいで」

それは否定しない。
宰田は渡瀬より年上のはずだが、童顔のせいか年下に見えた。
人畜無害そうな男だが、なかなかのやり手だと聞く。

「なんだ。二人でデートだったのか」

「いいえ。コンサートの打ち合わせをした後、愚痴大会をしていました」

「おい」

「誰とは言ってませんが、心当たりはあるみたいですね」

うんうんと渡瀬はうなずいていた。
宰田はにこにこと笑ったままで俺を眺めていた。
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