幼馴染は私を囲いたい!【菱水シリーズ②】
懇願するような声。
誰かを引き留めるような人じゃないのに引き留める言葉に驚いた。
あんな簡単に人と別れてしまえる人がいったい誰を引き留めているというのだろう。
誰に向かって言っているか、わからないけど梶井さんは苦しそうだった。
辛い夢でも見ているのかなと思いながら額に冷たいタオルをのせると、うっすら目を開けた。

「誰……?」

「あ、あの」

「チョンマゲオデコか」

タオルをのせた手を梶井さんはつかむと、ふっと笑った。
高校生の頃に戻ったような笑顔。
すぐにまた目を閉じてしまったけど、険しい顔が少しだけ優しくなって、規則正しい寝息が聞こえてほっとした。

「ど、どうしよ……」

手を握られたまま動けない。
これってどうしたら!?
混乱してスマホを手にした。

「あ、逢生!そうだ!逢生を召喚すればいいのよ」

いや、待って。
逢生を呼んでこの状態を見られたら、梶井さんに殴りかかるかもしれない。
この弱り切った梶井さんに……?
息の根を止めるようなものだ。

「仕方ないわね……」

目が覚めるまではここにいようと決めた。
これは武士の情けよ!
いつもは自信たっぷりな顔も今は弱々しい。

「……母さん……ごめん……」

その目尻からは涙が一筋こぼれて消えていった―――
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