幼馴染は私を囲いたい!【菱水シリーズ②】
数曲終わり、曲名だけじゃどんな曲なのかわからない私と違って周りはバッチリわかっているらしく、この曲は梶井さんの大人の力たっぷりよねとか、陣川さんのカルメンで遊ばれたいとか、濃い話をしていた。
うん。わからない!
梶井さんがうまいことだけはわかったけど、それだけ。
つくづく自分の音楽センスのなさに失望するわ。

「あら」

マダムの声にちらりと横目で見た。

「深月さんが情熱的な曲を弾くなんて珍しいわね」

「陣川さんのイメージなのに」

「わざと梶井さんが選んだんじゃないの」

二人のデュオだった。
たしか、二人でやる曲で聴いてって言っていたやつよね。
曲はリベルタンゴ。
演奏が始まるとマダム達はしんっと静まり返った。
曲の細部まで聴き取ろうするかのように。
リベルタンゴはダンスというより二人の殴り合いだった。
ガチ殴りですか!?
マダム達は驚いた表情をしている。
音を競いあう二人。
梶井さんが笑いながら弾く。
その殴り合いを楽しむように。
それなのに曲は成立している。
逢生が梶井さんをにらみつけた後のことだった。
なにか梶井さんが逢生に言った?
一瞬だったけど、逢生の音が崩れたことに気づいた。
今までそんなこと一度もなかったのに逢生の音が乱れていた―――
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