幼馴染は私を囲いたい!【菱水シリーズ②】
「とぼけないでください」

―――バレてたか。
俺はくすりと笑った。

「あなたは世界的なチェリストなんですよ!舞台で共演者を動揺させて演奏を乱すのは三流のやることです!」

「お前の言葉は殴られるより効くな」

「そんな泣きそうな顔をするくらいなら、正々堂々真っ向から勝負するべきでした。深月さんは少なくとも彼女のために必死に弾いていましたよ」

わかっている。
不得意な曲調であるにも関わらず食らいついてきた。
それで俺は理解した。
想いの強さは向こうが上だということを。
こっちはなりふり構わず、あんな必死になれる年齢じゃない。
そう思った時点で俺は負けていた。
体裁も常識も捨てられるくらい俺も必死にならないと手に入らなかったのだと。
彼女の前で、いつも俺はかっこいい初恋の人を演じていた。
それを演じきった。
お願いの時ですら、情けなくすがることはできなかった。

「悪かった」

謝ったせいか、渡瀬の険しい表情が少しだけやわらいだ。

「二度とあんな真似をしないでください」

渡瀬はバシッと俺の顔に封筒を叩きつけた。
傷心の俺にも容赦がない。
優しくされるよりはいいか……
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