幼馴染は私を囲いたい!【菱水シリーズ②】
小声で私が言うとくすりと笑う声がした。
こんな小さい声なのに聞こえちゃった?
ぎろりと寿実をにらむとさすがにおとなしくなった。

「愛の挨拶か。深月(みづき)逢生(あお)には合わないと思うな」

前の席の男の人がぼそりとそう言うのが聞こえた。
逢生に合わない?
この曲が?
最初の曲はエルガーの愛の挨拶。
三人でやる三重奏からのスタート。
幕があがり、タキシードを着た三人にスポットライトがあたる。
ピアノ、バイオリン、チェローーー物音ひとつしない会場。
しんっとした無音の中でバイオリンを手にした陣川(じんかわ)さんが軽く顔を渋木(しぶき)さんへと向ける。
渋木さんが小さくうなずくと白い鍵盤に指を置く。
優しいピアノの音。
あの冷たく人形のような顔をした渋木さんがこんな豊かな音を出すことに驚いた。
誰を想って弾いているんだろう。
そして弦楽器の二人が加わる。
ピアノの伴奏に合わせて弦楽器が歌を歌っているみたいだった。
逢生は昔よりずっと上手になっていた。
音楽のことなんかわからないけど、逢生の音はわかる。
ずっと聴いてきたから。
甘く優しく語る愛の声。
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