君が最愛になるまで

違和感 side千隼

幼なじみである紬希に会ったのは約10年ぶりだ。
最後に会ったのは俺が高校を卒業し、大学に入学する前だった。


地元を出て進学するため家を出ようとした時、見送りに来てくれた紬希はまだ中学生だった。
まだ幼くてでも俺の後ろを弟と一緒についてくる姿は可愛くて幼なじみとして大切にしていたと思う。


それからいろいろあった俺は紬希と連絡を取ることはなくなり、早10年が経った。
まさかこんな形で再会するなんて思ってもいなかった。


10年ぶりに再会した紬希は随分大人になっており綺麗な女性に成長していて正直驚いた。
ずっと昔に俺と話した話を覚えていたようで、あの子もまた俺と同じような職種に就いてくれて嬉しいのが正直なところだ。


だけど紬希は会社で俺と幼なじみだということを黙っていた。
その事実を俺は面白くなくて、たくさんの社員がいる前で宣言していた。


紬希が隠したがる理由が分からないし、俺にとって幼なじみである紬希は特別な存在で、それを黙っている理由がない。
それと同時に紬希にちょっかいをかける男の牽制になれば良いとも思った。


なんでそんなことをしたくなったのか、単に幼なじみを取られるのが面白くないと思ったんだろう。
だけど俺の中に芽生えた違和感は少しずつ大きくなっていく。


紬希は昔から真っ直ぐな女の子だった。
中学では俺と幼なじみだということをよく思わない生徒や俺の同級生からいろいろ言われたことがあるらしい。


その事実はあの子の口からではなく、弟から俺は聞かされた。
一言も紬希からそう言った話を聞いたことがなかったため当時の俺は驚きを隠せなかった。


俺に無邪気に笑いかける紬希の笑顔は純粋で、その裏側にそんなことを隠していたなんて誰が気づいただろうか。
弟からその話を聞かなければ当時の俺はずっと気づかないままだったかもしれない。


紬希にそのことを伝えた時、あの子は真っ直ぐ俺を見つめて言ったんだ。
その言葉が紬希の性格や心を表しているんだとすぐに分かった。


『確かに言われたけど、でもそれで千隼くんの幼なじみを辞める理由にはならないよね?だって私が千隼くんと一緒にゲームしたり遊ぶの好きだから一緒にいるんだもん。でももし千隼くんに嫌って言われたらその時は考えるね』


まるで年下とは思えないその大人びた表情を高校生ながら大切にしたいと思った。
もちろん幼なじみとして、年上でもある俺はこの姉弟をこの先も守っていきたいとそう思ったんだ。


紬希はたまにびっくりするくらい的を射た直球の言葉を向けてくる。
裏表がなく嘘偽りのないその言葉に俺は何度も救われた。


それが大人になった今でも変わっていないようで安心した自分がいた。
だけどそんな変わらない紬希の横に俺がいることがとても相応しくないことのように思えてならない。


真っ直ぐで純粋な紬希の横に俺のような汚れた人間が立っていいわけがない。
俺は自分でも分かっているが最低な男だ。


誘われれば誰とでも寝るし、去ろうとする者は追わない、と俺は周りから思われている。
人の気持ちを弄ぶような生活を繰り返してきた俺がこの数年の出来事を何も知らない紬希の隣にいてもいいのか考えることもあった。


だけどそんな気持ちとは裏腹に俺は社内で宣言し紬希との関係を公にした。
それをあの子はどう思っているんだろうか。


ふと視線をあの子の元へ向ける。
俺の席からはフロアにいる社員たちが見渡せるようになっており、その一角に紬希のデスクはあった。


ディスプレイがたくさん並べられており画面を見つめながら作業をする姿が目に入る。
その横顔を見つめながら俺はあの日を思い出していた。


紬希の口から噂のことに触れられるとは思ってもいなかった。
半分冗談で紬希にもそうされたいかと聞いたら彼女は怒りとほんと少しの軽蔑を宿した目で俺を見つめた。


まさか紬希からそんな視線を向けられるとは思ってもいなくて心がズキっと音を立てたような気がした。
それと同時に触れようとした時には拒否られ、悪いのは自分だと言うのに一丁前に傷つく自分がいた。


思っていた感情と実際感じる気持ちに差が出ていることに気づき始めたのはつい最近のことだ。
この違和感の正体を早く知りたい。


「早乙女さんっ」

「ん、悪い。どうした?」

「あの、このデータの確認お願いします〜」


確かこの女はグラフィックデザイナーの部下だった。
データの確認のため俺の元へ来てくれたらしい。


持ってきてくれたデータを受け取りその内容を確認する。
彼女はどこか紬希に似ていた。
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