君が最愛になるまで
こんなにも真っ直ぐ気持ちを伝えてくれる人に、私が気持ちを隠すことは卑怯な気がした。
だからこそ素直に話すべきだと思い、ゆっくり口を開く。


「⋯初恋の相手なの。ずっと引きずってて、最近やっと前を向こうと思ってたんだけど再会して、やっぱり忘れられなくて」

「初恋の相手か⋯それはすごい再会だね」

「でも、叶わないって分かってる。あんな感じだしね」

「⋯誰でも抱くって噂の人だよ?辛いって分かってるのにそれでも早乙女さんを選ぶの?」


要くんの言うことはごもっともだ。
私の気持ちはきっと千隼くんに伝わらない。


例え気持ちを伝えたとしても、私のことを幼なじみとしか思えないだろう。
それだったらこうして好きだと言ってくれる人を選んだ方が幸せになれるはずだ。


(それでも⋯消せないんだよね)


「俺に入る余地、少しもなさそうだね」

「⋯要くんが好きって言ってくれてすごく嬉しかった。ありがとう。でも気持ちには応えられない」

「そっか⋯⋯」


要くんは寂しそうに眉を八の字にさせながら儚げに微笑む。
こんな顔をさせてしまっているのは紛れもなく私で、その表情を見ると胸がギュッと締め付けられ苦しい。


「人として尊敬されるべきことをしているわけでもないのに、こんな風に想われて早乙女さんは幸せ者だな。なのにそれに気づかないなんて、こっちが悔しいよ」

「⋯⋯ありがとう。そう思ってくれることが嬉しいよ」

「俺の方こそ、気持ち聞いてくれてありがとう。俺の気持ちなんとなく伝わってたよね?」

「うん。分かりやすく出してくれてたから」

「これからも同期として仲良くして欲しい。俺はそうしたいから、紬希ちゃんもそうしてくれないかな?」

「もちろん。要くんがそう言ってくれるなら、ずっとそうしてたい」


要くんはフワッと笑って取り分けた料理を口に頬張る。
私もそれに釣られて料理を頬張ると美味しさが口いっぱいに広がった。


料理を頬張っていると同時に鼻の奥がツンと傷んだ。
私が泣いていい立場じゃないのに、要くんの優しさや想いが伝わってきて自然と涙が込み上げそうになる。


「俺でよければこれからも話聞くよ。すぐに⋯紬希ちゃんへの想いを消すことは出来ないけど、ゆっくり思い出にしていくから」


私自身も初恋を引きずっていたため、恋心を思い出にすることがどれだけ難しいか知っている。
それでも目の前の彼はそうしようと決意してくれた。


「要くん本当にありがとう」

「好きな子からありがとうって言われると嬉しいね。ごめんって言われないだけ幸せだな俺は」

「要くんが私を好きでいてくれて私は本当に幸せ者だよ。ありがとう。そう言ってくれたこと、絶対に忘れない」


涙を流さないように取り分けてくれた料理を目いっぱい口に運ぶ。
そんな様子を要くんはどこか寂しそうに見つめていた。


「さて、料理冷めないうちに全部食べちゃお」

「うん」

「これからも今まで通りでいてね。それを俺も望んでるから」

「⋯⋯分かった」


要くんに対して罪悪感や申し訳なさを感じることは失礼に値するだろう。
私がそう思えば思うほど、彼の気持ちを無下にすることに繋がってしまうと思った。


今までと同じように要くんと関係を築くことがお返しにもなると思うし、それが私の望みでもある。
その後、私たちは満足するまでいろんな料理を注文し味わった。


「ん〜美味しかったね」

「そうだね。今度は真夏ちゃんも連れて3人で来ようか」


要くんは私を駅まで送ってくれた。
最後まで優しく完璧すぎる要くんは最高に素敵な人だと思う。


「あ、そうだ紬希ちゃん」

「ん?」


私の名前を呼んだ要くんにヒラヒラと手招きされたため彼に近づく。
すると額に一瞬温かくて柔らかい感触が触れた。


「えっ?!」

「早乙女さんに宣戦布告ってことで」


額に手を当てて口をパクパクさせたまま要くんを見つめる。
要くんの柔らかい唇が額に一瞬触れたようで、状況を理解した途端一気に頬に熱が集まった。


どこか面白がるようにニカッと笑う要くんはやっぱりかっこいい。
こんな風にいたずらっぽい笑顔で笑うことを私は今まで知らなかった。


「か、要くん⋯!」

「ごめんね紬希ちゃん。明日からはまた普通の同期だから」

「う、うん」

「気をつけて帰ってね。じゃ、また明日」


そう言って要くんは背を向けて歩き出す。
本当に私は何から何まで色んな人に救われている。


今もこうして要くんの言葉や優しさに救われた。
何度も心の中で要くんにお礼を伝える。


彼の背中を見つめながら私は深々と頭を下げた。
そして家に向かって歩き出す。


要くんからの気持ちを無駄にはしない。
大切に育ててくれたその想いを告げてくれたことを誇りに思い、私もまたこの気持ちに向き合う。


その覚悟を決められたのは要くんのおかげだった。
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