折り鶴の願い
少女は夜を駆けていた。
汗が頬を流れ、喉から肺腑(はいふ)が飛び出してきそうだった。視界は空腹と疲労で(くら)み、いつ倒れてもおかしくなかったが、少女には関係ないことだった。
足を前に、もう一歩前に。可能な限り速く、四肢(しし)が千切れようとも。
"神谷(かみや)優里(ゆうり)"と呼ばれた少女には時間がなかった。
この道を走り終えた時、自分は死ぬのだろうと優里は考えた。
優里は、近くの女学校の生徒であった。
勉学に励み、親友達と共にスポーツにも励んだ。
学校の門前に文房具店があり、菓子も扱っていたことから、よく放課後に入り浸っていた。
しかし、その学校生活も今となっては懐かしいくらいに遠のいている。
縫い合わせの防空頭巾を被って、爆発から身を隠す。家が焼かれ、家族も死んだ。
さりとて少女は少女。戦時中なのも相まって、満足な食事も取れず、眠れば夜風が骨まで冷やす生活だ。生まれつき体が弱いことも相まって、優里は背が低く、親友達と並ぶと下から数えた方が早い位置にいる。
働いて働いて、くたくたになっても苦ではなかった。みんな同じだから。
「優里、足動かせー!」
少し前を走る親友の椿(つばき)が声をかける。その言葉でハッと我に変える。
空が赤い。近くの草むらが燃えている。
「あ―――」
小石につまずいて転んだ。
「優里!大丈夫か!?」
「ゲホッ、、、ゲホッ」
喉が痛い。あまりにも痛くて喉を抑える。
「おい、しっかりしろ!」
椿の顔が滲む。揺さぶられているのに意識が朦朧(もうろう)とする。
死は怖くなかった。
冥府も、ここよりは居心地が良かろうと思えたから。
死の痛みも怖くなかった。
無限に続くこの日常こそが責め苦であったから。
何日もまともなご飯にありつけず、雑草でさえも食べる日常が。
雪の朝に目覚め、隣の友人が物言わぬ(むくろ)と成り果てているのを見る日常が。
その時、熱い突風が二人を巻き込んだ。
叫びは声にならず、願いは形にならず、願いは誰にも届かなかった。
それが世界だった。


ただの男子高校生、小林健太(けんた)は困っていた。
どうして良いか分からなかった。
二人の少女が、東京の道のど真ん中で倒れていたからである。
いや、一人は少年だ。少年が少女に覆い被さるように倒れていた。
「あの、、、」
少年の肩を軽く叩いた。とりあえず、意識はあるのかという確認だ。
ピクリと、少年の指が動いた。
良かった、意識はあるようだ。
「救急車、呼びましょうか?」
二人の着ている服はかなりボロボロだ。所々破れていて、汚れている。
「、、、っ」
少年と目が合った。
「あの、、、」
少年にそっと手を差し出すと、少年はすくっと立ち上がった。行き場をなくした手が空中で漂う。
「、、、!?優里、、、優里!」
少年は周りを見渡した瞬間、焦りの表情を浮かべて倒れている少女を揺さぶった。
「、、、う、、、」
小さな声が聞こえた。優里と呼ばれた少女は目を開け、体を起こす。
「、、、、、、あの」
少女が困惑した様子で健太を見る。
「ここは何処?」
「は?」
< 1 / 1 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

カーテンコールのその先に

総文字数/2,059

青春・友情1ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
町外れのボロボロな芝居小屋で活動する、中学生四人組の小さな劇団。 そんな時、芝居小屋が取り壊しになるかもしれないという噂を聞き、次の公演までにお客さんで満席にすることを決める。 「おぉぉ!これならいける!!.....多分」 フリーダムで楽しい事が大好きだが、少々ズボラっ子、心乃。 「とりあえずバンジー飛んだらいける」 面白い物をすぐさま手持ちの携帯で写メる、海人。あだ名は時計塔の精霊。 「ったく、ちゃんとしろよー。特に時計塔!」 負けず嫌いの意地っ張り。ぶっきらぼうだが仲良くなると親切になる世話焼きなツンデレ、悠真。 「床が抜けるので舞台の上ではケンカしないでくださいね」 自分の意見をなかなか口にしないため一見するとミステリアスだが、実は感受性豊か。ポケットにいつもお菓子を忍ばせている、リンドウ。
日ノ本元号男子

総文字数/69,983

歴史・時代32ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
私、国語と歴史が好きな、進路に追われている中3の美空だよ! 趣味はダラダラしながら動画を見ること。 平々凡々の毎日を過ごしていたはずなのに、ある日、メガネの紳士に導かれて不思議な場所に行っちゃった。 そこで私を待っていたのは縄文、弥生など個性が強すぎる元号のイケメン男子達17人!? 彼らと一緒に日本の歴史を学んでいくんだけど.........仲良くしてくれそうな人もいれば初日から不機嫌モードな人もいて、全員と仲良くなれる気がしないよ!! 「......貴方は向日葵みたいだね」 縄文。 「芸は身を助くるて言う。世の中に覚えておいて損なものはなかばい」 弥生。 「古墳は王の墓やねん。ロマンが詰まっとるやろー?」 古墳。 「遣隋使の時代なのですよー!」 飛鳥。 「あと実力ある若手や新人がいたら絶対声掛けてくれ」 奈良。 「若い者には幸せになってほしいですねぇ」 平安。 「日ノ本の歴史に携わる身、"若輩者だから"で許されるか?」 鎌倉。 「僕は南朝」「俺は北朝」 南北朝。 「怒ってるの?ごめん。徳政令でチャラにして」 室町。 「辛い時には私達がついていることを忘れないで頂きたく。特に私を忘れないで頂きたく!」 戦国。 「日本一の色男、安土桃山であります!」 安土桃山。 「別にアンタと仲良くなりたいとか思ってないし!!」 江戸。 「思い出というのは綺麗に見えるんですよ」 明治。 「美空っち可愛い〜!ラジオ巻き、似合ってるよ!」 大正。 「体は資本。ま、俺 もちっとばかし前までは御寮人みてぇにやんちゃしていたけど......」 昭和。 「気楽に生きた方が絶対楽しいって〜!」 平成。
魔法探偵、リセ!

総文字数/1,949

恋愛(純愛)1ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
魔法学校中等部一年生のリセは、魔法学校の授業の一環で人間界に向かう。 そこでリセは、使い魔であるネオとメモと共に喫茶店を始める。 その理由は、憧れの探偵になるため! 「あーあ、明日の天気はなーに?」 ひだまり喫茶店の店長で探偵に憧れている魔法使いの女の子、月見リセ 「お惣菜、タッパーに詰めておきますね」 気配り上手で家事がめちゃくちゃ上手なストッパー役、観察力と洞察力に優れている虫メガネの精霊、ネオ。 「あ...そんな使い方ダメです...。僕がなんとかしてみますから......」 健気だけど引っ込み思案のインドア派。運動神経が悪く何かにつまずくことも多いが、記憶力はズバ抜けているメモ帳の精霊、メモ。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop