眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
静かに灯りを落とした部屋には、ほんのりと灯る小さなスタンドライト。

花音は布団の中で、肩まで毛布にくるまりながら、そっと匠に寄り添っていた。

「ここ、昔のたくみの部屋なんだよね?」

「うん。中学の頃はポスターとか貼ってたけど、母さんが綺麗に全部剥がして、今や“客間”扱い」

くすっと笑った花音の頬に、匠が手を伸ばす。
優しく包むような手つきに、花音の胸がきゅっと締めつけられる。

「……あの頃、こんなふうに年を越す未来があるなんて、思いもしなかったな」

「俺は……ずっと想像してたかも。願いごとみたいに」

そう囁く匠の声は、あたたかくて、どこまでもまっすぐだった。

布団の中で手を繋ぐ。
指先から、互いの心音が伝わってくる。

「来年も、たぶん大変な年になるよ。何が起きるか分からないし、また……守れないこともあるかもしれない」

そう呟いた花音の声に、匠は静かに首を振った。

「でも、一緒なら乗り越えられる。お互い、どこまででも」

その言葉に、花音の目尻がわずかに潤む。

「……ずるいな。そう言われたら、どこにも行けなくなっちゃうじゃん」

「ずっといてよ。もう、俺の大事な人なんだから」

唇が触れる。やわらかく、熱く、そして静かに深く――
まるで過去の痛みも、未来の不安も、すべてを溶かしてしまうようなキスだった。

外では、かすかに除夜の鐘が響きはじめていた。

時計の針が新しい年を指す頃、ふたりは何も言わずに、ただそっと、額を寄せ合う。

未来は、まだ白紙だ。
でもこの瞬間だけは、確かにふたりのものだった。

未来はまだ見えなくても、このぬくもりがあれば、どんな夜も乗り越えられる気がした。

眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。

それは、二人だけの静かな約束だった。

────完

【この物語はフィクションです。実在の人物・団体・出来事とは関係ありません。】
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