眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
炬燵の上に並んだみかんの山と、湯気を立てる年越しそば。

テレビからは年末特番の笑い声が流れ、部屋の空気はどこまでもあたたかい。

「花音ちゃん、もっと食べなさいね。うちの男たちは遠慮知らずなんだから、早くしないと全部取られるわよ」

由香里が笑いながら皿を差し出すと、花音は「いただきます」と頭を下げ、器を受け取った。

炬燵の向こうでは、博志が録画した紅白を巻き戻すのに苦戦していて、その隣で兄・陸が「もう、父さん、それさっきもやったから」と苦笑している。

ミルクが誰ともなく膝に乗っては降り、炬燵布団の中に潜ったまま出てこない。

年の瀬の空気はどこか静かで、満たされていて、そして懐かしい。

ふと、ポケットのスマホが震えた。

実家の母からだった。

「……うん。今夜は帰れないの。明日から当直だし。でも、正月明けには帰るって前に言ったでしょ? ……そう、紹介したい人もいるの」

電話の向こうで、母が「わかったわ」と優しく言った。

その声に、ほんの少しだけ胸が熱くなった。

通話を終えると、匠が台所から顔を出した。

「そば、追加する人ー?」

「はーい!」と手を挙げると同時に、隣の由香里も「あら、わたしも」と笑う。

その光景が、まるでずっと前からそこにあったかのように自然で、花音は自分でも驚くほど静かに、こう思った。

――ああ、私はもう、大丈夫だ。

秒針が12に重なると、テレビのカウントダウンが始まり、誰かが「おお、もうすぐだ」と声をあげた。

新しい年が来る。

今度は、迷わず迎えられる気がした。
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