眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
書類の山から顔を上げたところで、早瀬はふと横に立った新田の気配に気づいた。
「夕方5時、児相の佐原さんがまた川野宅を訪問するってさ。今回は警察の立ち会いはナシらしい」
「一人で行くのか……」
早瀬は手を止め、デスク上のカップに残った冷めかけたコーヒーを口に運んだ。
すると、向かいの席に座っていた後輩の岡田が、書類のホッチキスを留めながら、何気なく口を挟んできた。
「そういえば川野さんの件で、先週だったかな……夜間、男女が激しく口論してるって通報、入りましたよ。子どもの泣き声はなかったんで、こちらでは一報扱いって感じで、報告には回してなかったですけど」
早瀬と新田が同時に岡田を見た。
「それ、どこにも上がってないな」
新田の口調が微妙に低くなる。
「すみません。交番で一次対応して、いわゆる“生活音レベル”って判断で。現場では収まってたってことでした」
「男……相手は誰だったか、わかるか?」
早瀬がすかさず問う。
「通報者の話だと、母親の彼氏っぽいって。見た目は20代後半から30くらいの男性。外で怒鳴ってるのが聞こえたらしいです」
新田と早瀬が一瞬、視線を交わす。
「何もなければいいけどな」
早瀬がぽつりとつぶやく。
沈黙が落ちる。
コーヒーの苦味だけが、口の中に広がる。
「……いや、何かあったんだろう。まだ表面に出てないだけだ」
新田が目を細め、遠くを睨むように言った。
早瀬はカップを置き、静かに頷いた。
「夕方、あの子がちゃんと元気でいてくれれば、それでいい」
言葉の先に、何か確信のような祈りのようなものがにじんでいた。
「夕方5時、児相の佐原さんがまた川野宅を訪問するってさ。今回は警察の立ち会いはナシらしい」
「一人で行くのか……」
早瀬は手を止め、デスク上のカップに残った冷めかけたコーヒーを口に運んだ。
すると、向かいの席に座っていた後輩の岡田が、書類のホッチキスを留めながら、何気なく口を挟んできた。
「そういえば川野さんの件で、先週だったかな……夜間、男女が激しく口論してるって通報、入りましたよ。子どもの泣き声はなかったんで、こちらでは一報扱いって感じで、報告には回してなかったですけど」
早瀬と新田が同時に岡田を見た。
「それ、どこにも上がってないな」
新田の口調が微妙に低くなる。
「すみません。交番で一次対応して、いわゆる“生活音レベル”って判断で。現場では収まってたってことでした」
「男……相手は誰だったか、わかるか?」
早瀬がすかさず問う。
「通報者の話だと、母親の彼氏っぽいって。見た目は20代後半から30くらいの男性。外で怒鳴ってるのが聞こえたらしいです」
新田と早瀬が一瞬、視線を交わす。
「何もなければいいけどな」
早瀬がぽつりとつぶやく。
沈黙が落ちる。
コーヒーの苦味だけが、口の中に広がる。
「……いや、何かあったんだろう。まだ表面に出てないだけだ」
新田が目を細め、遠くを睨むように言った。
早瀬はカップを置き、静かに頷いた。
「夕方、あの子がちゃんと元気でいてくれれば、それでいい」
言葉の先に、何か確信のような祈りのようなものがにじんでいた。