眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
結咲はページをめくるたびに、はしゃぐようにキャッキャと笑いながら、絵本の猫を小さな手のひらでトントンと叩いた。

その首筋にはうっすらと汗がにじんでいるけれど、無邪気で安心した表情に、花音はほっと胸を撫で下ろした。

膝の上に感じる温もりと軽やかな生命の鼓動。
その小さな命を、必ず守り抜こう――花音は固く決意を新たにする。

やがて保育士の声がかかり、花音が顔を上げると、結咲に向かって言った。

「ママがお迎えに来たよ。行こうか?」

結咲は一瞬、首を横に振った。

「ママのところ、行きたくない?」

問いかけると、結咲は小さく「ママ、いく」と答える。

ふと、プレイルームの出入り口に、川野美咲の顔が見えた。
花音が再び結咲の目線に戻すと、わずかに不安げな表情を浮かべている。
それでも、少し躊躇いながらも、母親の元へ走り寄っていった。

その背中を見つめながら、花音の頭の中では思考が巡る。

(この子の態度は――アンビバレントな養育態度の典型かもしれない。
不安と愛情が交錯し、どちらとも言い切れない揺れがここにある。)

けれど、それは決して母親に愛がないわけではない。
むしろ、母親自身の不安定さや葛藤が、関係性に影を落としているのだろう。

(この複雑な親子関係が少しでも良い方向に進むことを祈るしかない。)

花音は心の中で、切なさと責任感が交錯するのを感じていた。
< 59 / 247 >

この作品をシェア

pagetop