【12/31引き下げ】クールなパイロットは初心な新妻を身籠らせたい
 まさか飛行機の操縦のことに触れられると思っていなかったのだろう。藤川さんは驚いた表情を見せた。

「私、車の免許しか持ってないから、車しか運転したことないんですけど……。車は天気が悪かったら電車やバス、ほかの公共交通機関などの替えがあるけど、飛行機って、替えが利かないから。本当に大変なお仕事だなって思うんです」

 そう言って立ち止まると、改めて藤川さんに向かって深々と頭を下げた。

「だからこそ、こうして直接お礼が言えてよかったです。本当にありがとうございました」

 頭を上げると、藤川さんが固まっている。
 なんで? 私、何か変なこと言った?

「あの……?」

 私の問いに、藤川さんが我に返る。

「あ、ああ。すみません。自分が操縦する飛行機の乗客の人から、直接こうしてお礼を告げられる機会が滅多にないので、驚いてしまって……」

 そう言って、藤川さんは自分の手を口に当てた。ほんのりと耳元に紅が差したように赤くなっている。もしかして、照れてる……?

「クルーたちは、飛行機に乗ったお客さまのお見送りを済ませた後、機内をチェックをして飛行機を降りるんだけど。俺たち操縦士も、機内でその日の運航日誌をつけてそれをチェックしていると、お客様たちと顔を合わせる機会は滅多になくて……」

 ああ、それで飛行機の操縦士さんに会う機会がなかったんだ……

 かつて、高校の修学旅行で飛行機に乗った時、客室乗務員さんたちのお見送りの記憶は残っていたけれど、操縦士さんの姿を見る機会はなかった。
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