蓮音(れおん) ―君に遺した約束―
第1章

『別れの夜、出会いの夜』






ーー

夕方のカフェ。

窓の外は、少しずつ暗くなり始めてた。

テーブルの向こう側。

ずっと好きだった、彼が座ってる。

 

…なのに、どうして。

 

「……別れよう」

 

その一言が、
静かに、でも鋭く胸に刺さった。

 

「……え?」

 

声にならない声が、喉の奥から漏れた。

 

彼――拓也は
どこか申し訳なさそうに目を伏せてる。

 

「ごめん」
「もう……無理なんだ」

 

心臓がぎゅって苦しくなった。

 

「……なんで?」
「私、何かした?」

 

必死に声を絞り出すけど、
返ってくるのは冷たい現実だけ。

 

「……他に好きな子ができたんだ」

 

瞬間、頭が真っ白になった。

視界が歪む。

息がうまく吸えない。

 

「…最低」

 

テーブルの下で、膝が震えてた。

けど、もう涙は堪えきれなかった。

 

拓也は立ち上がり、

「悪い。ほんと、もう終わりにしよう」

そう呟いて
ゆっくりと背を向けた。

 

カラン…

ドアのベルの音だけが
やけに大きく耳に響いてくる。

 

残された私は
ぽつんと席に座ったまま
涙がポロポロ零れ落ちるのを止められなかった。

 

ーー

 

夜道をひとり歩く。

 

心細くて
苦しくて

呼吸すらまともにできなくて。

 

「……っ」

 

暗い道に入ったそのときだった。

 

「お〜い、お姉ちゃん?」

 

突然、後ろから男の声が聞こえた。

 

「一人?危ねぇぞ?送ってってやるよ」

 

数人の男たちが
ニヤニヤしながら近づいてくる。

 

「…や、やめて…」

 

震えた声で言うけど
男たちは全然引かない。

 

「なに逃げんの?」
「少しくらい遊ぼーぜ」

 

腕を掴まれた瞬間。

体が固まって、声が出なくなった。

 

やだ――

助けて――

 

そのときだった。

 

ブォンッ――!

 

バイクの爆音が
静かな夜を切り裂いた。

 

ヘッドライトの強い光が
一瞬で辺りを照らす。

 

バイクから降りてきた男は
黒いジャケットに身を包んでいた。

 

背中に煌めく刺繍。

【不死蝶會《ふしちょうかい》】

 

「……てめぇら、何やってんだ」

 

低く、静かに
でも凍りつくような声。

 

男たちは一瞬で青ざめる。

「す、すみませんっ!!」

 

慌てて走り去っていった。

 

私は――
呆然と立ち尽くす。

 

助けてくれたのに
恐怖と緊張で動けなかった。

 

その男は、私の方を一瞥すると

 

「礼とかいらねぇよ」

 

冷たくそう言って、
私の横を素通りしていく。

 

「もう少し…周り見て歩け」

 

バイクに跨り、
再び爆音を鳴らして走り去った。

 

残された私は、
ただただその背中を見つめてた。

 

怖い人――
…なのに

 

胸の奥に残ったのは
不思議な、冷たいはずなのに温かい
あの目だった。

 

ーー

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