蓮音(れおん) ―君に遺した約束―
第13章『抗争前夜』

ーー

夜の空は
まるで張り詰めた糸みたいに静かだった。

 

雲ひとつない空に
冷たい月明かりが広がっている。

 

アジトの屋上。

 

コンクリートの冷たさが
足元からじわじわ伝わってくる。

 

それでも私は
その場を動けずに立ち尽くしていた。

 

 

「やめてよ…!」

 

震える声が自然に溢れた。

 

「もう十分じゃん…!
ここまで頑張ってきたじゃん…!」

 

 

声が震えて止まらない。

 

 

蓮は目を伏せたまま
風に揺れる髪の奥で静かに俯いていた。

 

 

「……これが最後だ」

 

掠れた低い声が、静かに返ってくる。

 

「これさえ終われば…お前と子供の隣にいられる」

 

 

私は必死に首を振った。

 

 

「嘘だよ…!

 

そんな約束…守れなくなったらどうするの…?
 

蓮くんがいなくなったら…私どうしたらいいの…?」

 

 

足が震えて
身体が今にも崩れそうだった。

 

でもその瞬間
蓮がすぐに支えてくれた。

 

強く、優しく
私の身体を抱き寄せる。

 

 

「……怖ぇよ 俺だってな」

 

 

蓮の声は、少しだけ震えていた。

 

 

「だけど…逃げたら一生、お前たちを守れねぇ

 

だからここで…全部終わらせる」

 

 

私の目から、また涙が溢れた。

 

涙がポタポタ落ちるたびに
蓮のジャケットを濡らしていく。

 

 

「でも…もうすぐ赤ちゃん産まれるのに…

 

…会ってあげられなかったらどうするの…?」
 

 

蓮は言葉を飲み込んだまま
私の背中をぎゅっと強く抱き寄せる。

 

 

「……必ず帰ってくる

 

そばにいる。絶対に

 

信じろ…俺を」

 

 

私は泣きながら顔を上げる。

 

 

「……絶対だよ?」

 

「嘘つかないでよ…絶対に…!」

 

 

蓮はゆっくりと
私の額に唇を落とした。

 

 

「約束だ」

 

 

静かな月明かりが
ふたりの影を重ねていた。

 

 

私はその腕の中で
声を殺して泣き続けた。

 

 

この夜が
どうか終わりじゃありませんように――

 

そう祈ることしかできなかった。

 

ーー
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