蓮音(れおん) ―君に遺した約束―
第12章『産まれてくる日まで』

ーー

季節は
ゆっくりと秋に変わっていった。

 

お腹は
今にもはち切れそうなくらい大きくなっていた。

 

歩くたびに
少し苦しくて
寝返りもうまく打てなくて

 

それでも――

 

お腹の中で
小さく動く命が

 

「がんばってるよ」
「もうすぐ会えるよ」って

 

静かに伝えてくれてるようで

 

私は何度も
お腹を撫でては微笑んでいた。

 

ーー

 

蓮も――

 

この頃には
もうすっかり“父親の顔”になっていた。

 

ぶっきらぼうなのは変わらないけど

 

それ以上に
気遣いが溢れていた。

 

 

「足冷えんぞ」

 

「無理すんなよ」

 

「動く時は絶対俺呼べ」

 

 

どんな小さな変化にも
すぐに気づいてくれる。

 

優しく背中を支えてくれるその手が

 

今の私のいちばんの安心だった。

 

 

「…蓮くん、最近すごいよ」

 

ふと笑いながら言った。

 

「最初は『父親になれるかな』って
不安そうだったのに」

 

 

蓮は
照れくさそうに鼻で笑った。

 

 

「今も完璧とは思ってねぇよ」

 

「けど――」

 

「腹蹴られるたびに思うわ」
「…こいつ、俺が守んなきゃなんねぇんだなって」

 

 

私はまた涙が滲みそうになる。

 

「…蓮くんがパパで、良かった」

 

 

蓮は何も言わずに
そっと私を引き寄せて抱きしめてくれた。

 

あたたかくて
強くて
優しい腕。

 

その腕の中で
私はまた静かに涙をこぼした。

 

ーー

 

出産予定日が
あとわずかに迫ったある日。

 

ふたりで用意していた
小さなベビー用品たちが

部屋に並んでいた。

 

小さな服
小さな靴下
おむつ
哺乳瓶

 

全部が愛おしくて
ひとつひとつ手に取るたびに胸が熱くなる。

 

 

「…これ着せたら絶対かわいいよね」

 

私が小さなベビードレスを抱えながら笑うと

 

蓮はじっと見つめたまま
小さく息を吐いた。

 

 

「生まれてきたら…
抱いた瞬間、俺泣くかもな」

 

 

その言葉に
思わず吹き出してしまった。

 

「蓮くんが泣くとこ、想像つかない」

 

「…うるせぇ」

 

蓮は苦笑しながら
照れくさそうに目を逸らす。

 

 

「でもさ…」

 

私はふと
小さな不安を口にした。

 

「…無事に、生まれてきてくれるかな」

 

「ちゃんと泣いてくれるかな…」

 

 

それは、ずっと心の奥にしまっていた不安だった。

 

蓮は黙って私の前に座ると
真っ直ぐ目を見つめてくれた。

 

 

「大丈夫だ」

 

「お前も、この子も――
ぜってぇ俺が守る」

 

 

その言葉に
胸がじんわり熱くなる。

 

私はまた静かに頷いた。

 

「…うん」

 

「ありがとう」

 

 

産まれてくる日まで――

 

私たちは
こうしてゆっくりと

 

静かな幸せを
育て続けていた。

 

ーー
< 19 / 25 >

この作品をシェア

pagetop