わがおろか ~我がままな女、愚かなおっさんに苦悩する~
媚びをふりふり忍者 (シノブ41)
目覚めたアカイは大事なものを失っていた。より正確に言うと炎が出せなくなっていたのである。この事実にシノブは焦った。まさかあれはただのまぐれだったのでは? いやいやそんな馬鹿な。たまたま偶然で人は炎を出せない。
「感情が高揚したら炎の魔術を出せたということじゃないの?」
「たぶん、そうなんだと思うんだが……」
ベットの上でのアカイのなんとも歯切れが悪い返事にシノブは不審感を抱く。どうしてあの出来事をもっと喜ばないのか? ついに魔術が使用可能になったのだから明るくなりなさいよ。
「でも良かった。アカイが魔術を使用できるようになって。これで旅が楽になるわ」
珍しく気を遣って明るく励ますもアカイは曖昧な笑みを浮かべるだけ。不気味である不思議である。いつものアカイなら俺はついにできたとばかりに調子に乗って変な行動をするというのに。そしてこちらが警戒するぐらいに妙な眼つきでこちらを見るはずなのに、今のアカイは元気はないし視線は逸らすし……どうしたのか? いつもの面倒で無駄に元気でいやらしい眼つきのアカイはどこに行ったの? いつかはどっか遠くに行って欲しいがこんな急にいなくなるのも不可解で嫌だ。
不気味なら不気味でせめて分かりやすい方の不気味であってほしい。慣れる程度の法則性のある方で。不規則性で意味不明さはひたすらに怖いのだから。まぁそれが不気味さというものの正体なのだが。人知の及ばぬ領域のお話でつまりはアカイの内面世界のことだ。ああ! もしかしてとシノブは思い合点する。左掌に右手の握りを打ち付けるぐらいの納得感。そうだそれに違いない。
「アカイ、もしかして凄く疲れているとか? 気力が萎えてしまったとか?」
聞くとアカイは振り返りしきりに頷き肯定する。なんだそういうことか、というかそうだよなとシノブは苦笑いした。どうしてそんなことを思わなかったのかと。
「そうよね。はじめてであんなに出したらね」
するとアカイはその言葉に激しく反応し震えた。えっなに? 私なんか変なことを言っちゃったとか? それからまたごにょごにょと何かを言っているが、聞こえない。よく分からないがこの話題は少し避けた方が良いのかもしれない。もしかしたら多大な魔力の放出は精神への負担といったものがのし掛かりこんな感じになってしまうのかも。私も術の使い過ぎで身体がこうなってしまったのだから。そうなるとこうやって魔術の話を聞くというのはあまり良くないことな可能性が。すごく聴きたいというかこれからの旅を左右する重要事なのに聞けないなんて……とシノブは脳内で地団駄を踏むも我慢した。ここは、堪えてあげよう。その代わりに。
「それとごめんなさい。私の兄が追手になってしまって」
自分の方の話をしよう。ひょっとしたらそのことでアカイは意気消沈しているのかもしれない。
「いや、それはシノブが謝ることじゃないよ。でもそのあの……スレイヤーが言っていたあれはその」
何を言っているのかさっぱり分からないがこれはあれだろうなあれ。やっぱりそれよねまぁそれでいい。とても分かりやすいあなたに戻ってくれておかげで話が進められる。
「兄さんは使命を止めるために嘘を吐いているから気を付けてね。信じちゃ駄目よ」
そうあちらを信じないでこちらの言葉だけを信じなさいとシノブが念を送っているもアカイの反応が鈍い。というか悩んでいる感じを出していた。なに? 何を悩んでいるの? やめてよ無駄に考えるのは。馬鹿なんだから無駄に考えないで私の言葉だけ信じなさい。私のことが好きなんだから疑うなんて有り得ないでしょ? もしかして私にずっと好きな男がいてそれと婚約関係でありその関係を成就させるために旅をしている……まさかそんなことを信じてはいないよねとシノブは焦った。
事実だけど、あなたはこれを事実だと信じてはいけない。そうしたらあなたは私の元から去ってしまうでしょ? それは困るからあなたはこのことには目をつぶっていてほしい。今は知らないままで私と旅をするのよ。だってそうしないと私が困るじゃないの。私が困ったらあなたも困るよね? 困った私をあなたは助けているんだからあなた自身が私を困らせたらそれって本末転倒でしょ? そう再び念を送るもアカイはなにも言わない。君を信じるとか同意もしない。ひょっとして迷っているとか? 冷静に考えて私みたいな若い美人に男の影がないとか有り得ないとか。だからそれは事実だけどあなたは信じちゃ駄目なの。
分からないかなー! 察しが悪いなー! まぁアカイだしなー! しょうがないのかなーとシノブは内心で苛々するも、呼吸を整える。落ち着けシノブ。ここは不本意だがアカイが喜ぶことを言わなければならない。媚びを売る……うぅ悔しいが仕方がない。体調が元に戻るまでこやつの面倒にならないといけないのだからこれはいわば賃金みたいなもの。むやみやたらに水を飲む商売みたいなもの。自分より下の冴えないおじさんに頼るというのが今の自分だと認めなければならない。これも全て尊き使命の為であり愛する王子の為……ならばできる。私にはできる!
「そうなの。私はあのまま兄さんに連れ戻されていたら里に帰ってそのまま無理矢理に結婚させられていたわ」
「むっ!」
今日初めてアカイが声をあげ身体から生気を感じられた。そうだこいつは私の結婚話を聞いた途端に魔法に目覚めた感じがあった。これだな。わかくりやすくていいぞ!
「兄さんは私の御城務めにずっと反対していてね。いつも早く帰ってこい嫁に行けの一点張りでさ。こっちはその気はないのにうるさくって」
だって王子と結婚するんだもんとシノブは心の中であっても呟きながらアカイの様子を伺うと怒っているようである。そうそうその調子で兄さんへの憎しみを養ってちょうだい。そしてあの言葉を信じないで。
「今回の事件を勿怪の幸いに兄さんは私を里に戻して嫁入りさせるつもりだったの。それがあなたのおかげでそうはならなかった。ありがとうアカイ」
途中で息を切ると逆に苦しいので息継ぎなしで一気に言うと手に衝撃が来た。
「当然だよ」
アカイが手を握ってきた。シノブは脊髄反射すらしない鈍くなった身体を呪いつつも感謝した。悲鳴や払い除けができない身体でこの場合は良かった。元の身体ならこの攻撃をかわしてクロスカウンターを顔面に喰らわしてしまうもの。
「君には世界を救う使命があるんだ。決してそんなことをしたら駄目だ」
そうそうその目付きとシノブはアカイの濁った瞳を見ながら思った。私を狙っているその目。分かりやすく操りやすいその瞳。鈍光を放つ欲望の色。おぉ不気味。絶対に私はあなたから逃げきってやる。地獄には一人で堕ちてください。
「でも一人じゃできない」
本当は一人でやりたいんだけどね。こう言えばあんた喜ぶでしょと思っていると手に力が加わる。痛いんだよ馬鹿。馬鹿って手加減ができないから嫌い。過剰か絶無かのどっちかが馬鹿の特徴。丁度いい塩梅な適度な力加減ができることこそが知性そのものだからね。
「俺がいるから大丈夫」
見事に引っ掛ったとシノブは満足したが頷かなかった。それは誤ったメッセージになるだろう。あなたの好意が嬉しいのではなく、こちらの思い通りになったから嬉しいのだから。よってシノブは瞬きを意図的にする。曖昧なこのメッセージ。無言でも首を動かなくてもいいこれ。あとで言い訳ができるし向うも向うで勝手に都合の良い解釈をしてくれるという利点のある反応。するとほらいまアカイはニタリと笑った。これでいい。仕込みは十分であるからと判断しシノブは言った。
「ありがとうアカイ。そうよね。この先に兄さんが旅を邪魔にしてくるからアカイの力で追い払えば良いしね」
荷物持ち兼番犬になってくれればこれより役に立つ存在はいないだろうな……と期待しながら手を離すとアカイは布団から起き上がった。
「俺に任せてくれ。俺達の行く道を遮るものは何人たりとも許さないからさ。必ず目的地に辿り着けるさ」
半身で以て振り向きながら親指を立てるアカイの謎のポーズに戸惑いながらシノブは頷いた。そうよ頑張って。あなたの命に掛けて私を王子の元に連れていってね、と思いながら。
「感情が高揚したら炎の魔術を出せたということじゃないの?」
「たぶん、そうなんだと思うんだが……」
ベットの上でのアカイのなんとも歯切れが悪い返事にシノブは不審感を抱く。どうしてあの出来事をもっと喜ばないのか? ついに魔術が使用可能になったのだから明るくなりなさいよ。
「でも良かった。アカイが魔術を使用できるようになって。これで旅が楽になるわ」
珍しく気を遣って明るく励ますもアカイは曖昧な笑みを浮かべるだけ。不気味である不思議である。いつものアカイなら俺はついにできたとばかりに調子に乗って変な行動をするというのに。そしてこちらが警戒するぐらいに妙な眼つきでこちらを見るはずなのに、今のアカイは元気はないし視線は逸らすし……どうしたのか? いつもの面倒で無駄に元気でいやらしい眼つきのアカイはどこに行ったの? いつかはどっか遠くに行って欲しいがこんな急にいなくなるのも不可解で嫌だ。
不気味なら不気味でせめて分かりやすい方の不気味であってほしい。慣れる程度の法則性のある方で。不規則性で意味不明さはひたすらに怖いのだから。まぁそれが不気味さというものの正体なのだが。人知の及ばぬ領域のお話でつまりはアカイの内面世界のことだ。ああ! もしかしてとシノブは思い合点する。左掌に右手の握りを打ち付けるぐらいの納得感。そうだそれに違いない。
「アカイ、もしかして凄く疲れているとか? 気力が萎えてしまったとか?」
聞くとアカイは振り返りしきりに頷き肯定する。なんだそういうことか、というかそうだよなとシノブは苦笑いした。どうしてそんなことを思わなかったのかと。
「そうよね。はじめてであんなに出したらね」
するとアカイはその言葉に激しく反応し震えた。えっなに? 私なんか変なことを言っちゃったとか? それからまたごにょごにょと何かを言っているが、聞こえない。よく分からないがこの話題は少し避けた方が良いのかもしれない。もしかしたら多大な魔力の放出は精神への負担といったものがのし掛かりこんな感じになってしまうのかも。私も術の使い過ぎで身体がこうなってしまったのだから。そうなるとこうやって魔術の話を聞くというのはあまり良くないことな可能性が。すごく聴きたいというかこれからの旅を左右する重要事なのに聞けないなんて……とシノブは脳内で地団駄を踏むも我慢した。ここは、堪えてあげよう。その代わりに。
「それとごめんなさい。私の兄が追手になってしまって」
自分の方の話をしよう。ひょっとしたらそのことでアカイは意気消沈しているのかもしれない。
「いや、それはシノブが謝ることじゃないよ。でもそのあの……スレイヤーが言っていたあれはその」
何を言っているのかさっぱり分からないがこれはあれだろうなあれ。やっぱりそれよねまぁそれでいい。とても分かりやすいあなたに戻ってくれておかげで話が進められる。
「兄さんは使命を止めるために嘘を吐いているから気を付けてね。信じちゃ駄目よ」
そうあちらを信じないでこちらの言葉だけを信じなさいとシノブが念を送っているもアカイの反応が鈍い。というか悩んでいる感じを出していた。なに? 何を悩んでいるの? やめてよ無駄に考えるのは。馬鹿なんだから無駄に考えないで私の言葉だけ信じなさい。私のことが好きなんだから疑うなんて有り得ないでしょ? もしかして私にずっと好きな男がいてそれと婚約関係でありその関係を成就させるために旅をしている……まさかそんなことを信じてはいないよねとシノブは焦った。
事実だけど、あなたはこれを事実だと信じてはいけない。そうしたらあなたは私の元から去ってしまうでしょ? それは困るからあなたはこのことには目をつぶっていてほしい。今は知らないままで私と旅をするのよ。だってそうしないと私が困るじゃないの。私が困ったらあなたも困るよね? 困った私をあなたは助けているんだからあなた自身が私を困らせたらそれって本末転倒でしょ? そう再び念を送るもアカイはなにも言わない。君を信じるとか同意もしない。ひょっとして迷っているとか? 冷静に考えて私みたいな若い美人に男の影がないとか有り得ないとか。だからそれは事実だけどあなたは信じちゃ駄目なの。
分からないかなー! 察しが悪いなー! まぁアカイだしなー! しょうがないのかなーとシノブは内心で苛々するも、呼吸を整える。落ち着けシノブ。ここは不本意だがアカイが喜ぶことを言わなければならない。媚びを売る……うぅ悔しいが仕方がない。体調が元に戻るまでこやつの面倒にならないといけないのだからこれはいわば賃金みたいなもの。むやみやたらに水を飲む商売みたいなもの。自分より下の冴えないおじさんに頼るというのが今の自分だと認めなければならない。これも全て尊き使命の為であり愛する王子の為……ならばできる。私にはできる!
「そうなの。私はあのまま兄さんに連れ戻されていたら里に帰ってそのまま無理矢理に結婚させられていたわ」
「むっ!」
今日初めてアカイが声をあげ身体から生気を感じられた。そうだこいつは私の結婚話を聞いた途端に魔法に目覚めた感じがあった。これだな。わかくりやすくていいぞ!
「兄さんは私の御城務めにずっと反対していてね。いつも早く帰ってこい嫁に行けの一点張りでさ。こっちはその気はないのにうるさくって」
だって王子と結婚するんだもんとシノブは心の中であっても呟きながらアカイの様子を伺うと怒っているようである。そうそうその調子で兄さんへの憎しみを養ってちょうだい。そしてあの言葉を信じないで。
「今回の事件を勿怪の幸いに兄さんは私を里に戻して嫁入りさせるつもりだったの。それがあなたのおかげでそうはならなかった。ありがとうアカイ」
途中で息を切ると逆に苦しいので息継ぎなしで一気に言うと手に衝撃が来た。
「当然だよ」
アカイが手を握ってきた。シノブは脊髄反射すらしない鈍くなった身体を呪いつつも感謝した。悲鳴や払い除けができない身体でこの場合は良かった。元の身体ならこの攻撃をかわしてクロスカウンターを顔面に喰らわしてしまうもの。
「君には世界を救う使命があるんだ。決してそんなことをしたら駄目だ」
そうそうその目付きとシノブはアカイの濁った瞳を見ながら思った。私を狙っているその目。分かりやすく操りやすいその瞳。鈍光を放つ欲望の色。おぉ不気味。絶対に私はあなたから逃げきってやる。地獄には一人で堕ちてください。
「でも一人じゃできない」
本当は一人でやりたいんだけどね。こう言えばあんた喜ぶでしょと思っていると手に力が加わる。痛いんだよ馬鹿。馬鹿って手加減ができないから嫌い。過剰か絶無かのどっちかが馬鹿の特徴。丁度いい塩梅な適度な力加減ができることこそが知性そのものだからね。
「俺がいるから大丈夫」
見事に引っ掛ったとシノブは満足したが頷かなかった。それは誤ったメッセージになるだろう。あなたの好意が嬉しいのではなく、こちらの思い通りになったから嬉しいのだから。よってシノブは瞬きを意図的にする。曖昧なこのメッセージ。無言でも首を動かなくてもいいこれ。あとで言い訳ができるし向うも向うで勝手に都合の良い解釈をしてくれるという利点のある反応。するとほらいまアカイはニタリと笑った。これでいい。仕込みは十分であるからと判断しシノブは言った。
「ありがとうアカイ。そうよね。この先に兄さんが旅を邪魔にしてくるからアカイの力で追い払えば良いしね」
荷物持ち兼番犬になってくれればこれより役に立つ存在はいないだろうな……と期待しながら手を離すとアカイは布団から起き上がった。
「俺に任せてくれ。俺達の行く道を遮るものは何人たりとも許さないからさ。必ず目的地に辿り着けるさ」
半身で以て振り向きながら親指を立てるアカイの謎のポーズに戸惑いながらシノブは頷いた。そうよ頑張って。あなたの命に掛けて私を王子の元に連れていってね、と思いながら。