わがおろか ~我がままな女、愚かなおっさんに苦悩する~

カオルことカオリによるアカイ評 (シノブ44)

 こんなに楽々すいすいと上手くいっていいのかしら、とカオルことカオリは逆に不安となった。

 悪党に追われ助けられ同行するという策略は予定通り成功した。シノブちゃんは正義感の強い子であるから困っている私を見捨てるということは絶対にしない。問題は例のそのアカイという男が私のことを気にいるかどうかであった。いまの私とシノブちゃんはタイプがまるで違う上にスレイヤーによれば奴は男の中の男という異様なまでの高評価。

 所詮男なんてと思いつつもいつも以上に気合を入れて演技をはじめ狙い定めて腰に抱き着いたら……こいついきなり当ててきやがった! 早すぎるし遠慮がなさすぎると思ったけど、これはこれである意味で男の中の男かなと様子窺いにチラッと見上げるとそこには恍惚さに耐えている奇妙で醜悪な顔があり思わず目を背けてしまった。

 待って、全然耐えていないけど、なにを耐えているつもりで? まさか爆発寸前なの? 酷すぎる! 逃げねば! と思ったら引き離してくれたのは意外であったけどその指先の熱さったら火がついているみたいで、こいつマジで発情しているのか? と思いつつまた顔を見ると鼻の穴を膨らませて何かを堪えている感が一杯だったのでまた目を背けた。

 こんなに完全に引っ掛っているのになにを我慢しているのかこの男は? 自分はカッコつけているつもりだけど全然カッコがついていないという痛々しさ。混乱していると優しいシノブちゃんが水筒を差し出してくれたありがたいし流石と言ったところ。飲みだすとアカイがこちらを見つめている。見せるようにはしているが、こういうのも好きって相当こちらに気が向いているといったところか。

 ならば次はとしゃがむとほら予想通りに凝視してくる。わざと開き気味にした胸元への熱視線。思った通りに動いてくれてこんなの赤子の手をひねるよりも簡単すぎてかえって怖いぐらい。台本でも渡したっけな? 凄い目力。胸先が熱い……さては乳首を探っているのか。どんだけ遠慮ないんだこいつは。今日会ったばかりどころか出会った数分前のことでしょうに。まぁこいつなら出会って数秒でガン見でしょうがね。

 しつこいな見えない角度で屈んでいるんだから諦めろって。というか瞬きをしていないのだけど目が乾かないんかこいつは……恐怖を覚え出してきたので立ち上がり去ろうとする演技をとると、やはりシノブちゃんが止めてくれて期待通りに同行するよう言ってくれた。ありがたやでこれで良しと思っていると眼の前に壁が立ちふさがった。アカイという壁がそこにあった。こいつ大きくないのになんでこんなにデカいのと驚いていると。

「これも縁です。一緒に旅をしよう。大丈夫、俺が君のことを護るから」

 アカイのこの言葉に呆気にとられながら頷くとあっちも頭を下げた。

「すみませんよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」

 はいはいこいつまた胸を見ていると呆れながら思う。ちょろいあまりにもちょろすぎる。これもう籠絡済だ。私の身体に誑かされてこんな臭い台詞を恥ずかし気もなく言うなんて。僕が君を護る、だってさ。私の身体が目的な癖になよくもまぁ言えたもんだ。もう俺のものだからという意識があるから護るなんて言葉が出て来るんだろうね。こんなしょうもないのに警戒しているなんてスレイヤーも人を見る眼がないものだ。

 とりあえず嘘の事情を話しながら私はシノブちゃんに尋ねた。念のために反応を知るためだから敢えて遠回り気味にこう言った。

「あのつかぬことをお尋ねしますが、二人は御兄妹でしょうか?」
「違います」

 言下に拒否するその勢いに私は安心した。シノブちゃんはまかり間違えてもこの男のことを好いてなどいない。男女のことだから旅を続けるうちに心境に変化があったら困ったことになったが、その可能性は限りなくゼロに近いといえる。

 まぁそれは当たり前のこと。だって、この男は、明らかに駄目だもの。酒と女にしか興味がないゴロツキの類。ほらまた胸を見ている。どんだけ……こやつ星人だな。故郷に帰りたいと願い引力に吸い寄せられる哀れで卑小なる存在。シノブちゃんのは控えめだからこの星人はすぐさまこちらに移住もとい切り替えたわけだ。どこまでも最低な男だこと。ここまで長く旅を共にしてきたのにポッと出の女の胸にすぐさま完堕ちしてしまうだなんて。

 憐れこう上なしな男。まっこれなら事は簡単に済むし一件落着になるでしょう。しっかしなに気取りながら話しかけてきているのやらこやつは。視線が全部胸元に集中し過ぎ。あまりにも遠慮がなくて指摘したほうがいいのか? いくらシノブちゃんではその欲求が解消できなかったからって、この飢え切ったケダモノそのものなギラギラした視線はかなり精神に来るわね。こっちは気づかぬふりでニコニコしないといけないわけだし。適当に話を合わせながら早いとこ始末をつけたいところ。次の宿屋でこの星人を罠にかけるとしましょ。
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