Good day ! 4【書籍化】
シップに乗り込むと、コックピットのコンピュータにデータを入力し、外部点検も済ませる。
往路は恵真がPF(Pilot Flying)を務め、操縦桿を握ることにしていた。

CAとのブリーフィングでも、チーフパーサーの佐々木がにこにこと恵真と大和に笑顔を向ける。
言わんとすることが分かり、恵真はなるべく大和が口を開かないよう、淡々とブリーフィングを進めた。

「離陸後は、割りと早めにシートベルトサイン切れると思います。ただ、1時間ほど飛んだところでTB2(中程度の乱気流)があるかもしれません。ご注意ください。キャプテンからは何か、ないですよね?」
「ん? ああ」
「ではよろしくお願いいたします」

お願いします、とCAたちも声を揃え、恵真はくるりと踵を返してコックピットへ向かう。
大和は何か言いたげだったが、恵真は「仕事中です!」のオーラを出し続けた。

福岡へは順調なフライトで、恵真は大和と息を合わせて無事にランディングする。
最後まで気を抜かず、ブロック・インしてから、ようやく恵真はホッと息をついた。

「ナイスランディング。さすがは恵真だな。思い出したよ、無駄な力みが一切ない、恵真らしいランディング」
「サポートありがとうございました。フライト中は何かありましたか?」
「いや、ベストを尽くしたいいフライトだった。問題は復路だな」
「はい。オフィスでブリーフィングお願いします」

乗客の降機を終え、整備士へシップの引き継ぎを済ませると、二人でオフィスに向かった。

「そう言えば、俺たちの最初のフライトも福岡だったよな」
「はい。あの時も復路の天候が荒れて、マイクロバーストの中をキャプテンが一発でランディングさせてくれましたよね」
「ああ、そうだった。懐かしいな」

二人でしばし思い出に浸る。

「俺、出会ったあの日のうちに、もう恵真に惹かれてたんだと思う。初めて女の子のコーパイと飛んで、見かけによらないランディングの腕前に驚いて……。帰りの車の中で色んな話をして、最後に明るく笑ってくれた恵真の笑顔が目に焼きついた。コーパイを恋愛対象にするなんてあり得ないって、無意識に自分の気持ちを抑え込んでたけど、あの時から俺の運命の人は恵真に決まってたんだ」

恵真は照れたようにうつむいた。

「私もです。パイロットの大先輩として雲の上の存在だった大和さんと一緒に飛んで、マイクロバーストの中を見事にランディングさせた操縦スキルに感銘を受けて……。車の中で私の悩みを聞いてくれて、力強く励ましてもらいました。どんなに心が救われたか。あの日から、パイロットとしての私も、私自身も、新たな気持ちで前を向けるようになったんです。そんなあなたに、心惹かれないなんて無理」

そう言って恵真は、ふふっと笑う。

「だけど私の方こそ、優秀なキャプテンに恋心を抱くなんてあり得ない。考えるのもおこがましいって、自分の気持ちに気づこうともしませんでした。だからあの日、ウイングローをホテルの部屋で教わった時、大和さんに好きだと言われてどれほど嬉しかったか……。抑えていた想いが一気に溢れました。私の運命の人も、出会った時からあなたです。ううん、あなたと出会うことが私の運命だったの」
「恵真……」

二人で微笑みながら見つめ合う。

「俺の人生、奇跡みたいだって思うよ。パイロットになる夢を叶えて、最愛の人と結ばれて。可愛い子どもたちを授かって、毎日が幸せで愛おしい」
「私もです。ずっとずっと、この幸せを守りたい」
「ああ。俺が必ず守るよ、恵真と翼と舞を」
「はい。ありがとう、大和さん」

何年経っても色褪せない、お互いの恋心。
時を重ねるにつれて深まる、お互いの愛情。
そしていつまでも揺るぎない、家族の絆。

二人は改めて、胸いっぱいに広がる温かい幸せを噛みしめていた。
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