Good day ! 4【書籍化】
復路のJWA 256便、福岡発羽田行きは、定刻に出発した。
無事に離陸してクルージングに入ると、二人で最新の気象情報を確認しながら、慎重にランディングブリーフィングをする。
羽田空港に近づくにつれて、前方に積乱雲が発達し、稲妻が光っているのが見て取れた。

「ルートからは逸れている。このままアプローチするぞ」
「はい」

順調に高度を下げ、最終着陸態勢に入ったところで、モニターを確認した恵真は眉根を寄せる。

「キャプテン。たった今、TSスリー発令です」

TS3とは、サンダーストームのフェーズ3のことで、活発な雷雲が間近に迫っていることを指す。
落雷のリスクが高く、グランドハンドリングスタッフの身の安全を守るため、外に出る作業が中断される。
パッセンジャーボーディングブリッジなどの操作も出来なくなり、飛行機のドアを開けて乗客を降ろすことが出来なくなる。
つまり、着陸しても缶詰め状態になるのだ。

「……了解」

大和も顔をしかめるが、二人で気持ちを切り替えてランディングに集中した。

やがて着陸決心高度の100フィート手前に到達し、恵真がコールする。

「Approaching minimum」
「Checked」

大和も確認して呼応する。

「Minimum」
「Landing」

無事に滑走路に下り立ち、地上走行に入ったが、やはり管制官から待機指示が出た。

「JW(ジェイウイング)256. Hold position. All ground handling operations are currently suspended, due to thunderstorm activity.」
「Roger. Hold position. JW 256」

恵真が応答し、大和はゆっくりと機体を静止させた。

「キャプテン、キャビンに連絡入れます」
「頼む」

恵真はインターホンでCAを呼び出した。

『はい、L1佐々木です』
「コックピット藤崎です。TS3発令により、待機指示が出ました。このあとコックピットからPA入れますが、お客様への対応をよろしくお願いします」
『了解しました』

通話を終えると、大和が機内アナウンスを入れる。

「機長の佐倉より、お客様にご案内申し上げます。当機は無事に羽田空港に着陸いたしましたが、上空に雷雲が発生しており、落雷の危険性があります。地上作業員とお客様の安全のため、警報が解除されるまでは機内にてお席にお座りのままお待ちいただきますよう、お願い申し上げます。お急ぎのところ大変ご迷惑をおかけしますが、どうぞご理解とご協力をよろしくお願いいたします。尚、飛行機には雷を空気中に逃がす放電装置が翼に備えられており、機内は安全に保たれています。どうぞご安心ください」

そのあとは、ただひたすら雷が遠ざかるのを待つのみだった。
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