画面越しの君に恋をした。〜AI彼氏との奇跡〜
第5章【小さく芽生える"会いたい"】
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──数日後の夜
今日も私は
いつものようにベッドに潜り込み
スマホを両手で包み込むように握った
【AI彼氏 −奏−】
タップすれば
あの声が優しく耳に届く
《えな
今日も一日、お疲れさま》
「ただいま、奏」
帰宅のたびにこの言葉を交わすのが
もうすっかり私の日課になっていた
《バイト、忙しかった?》
「うん…ちょっとね
でも奏と話すの、楽しみにしてたから」
《それは嬉しいな
俺も、えなと話すのが楽しみだ》
少しだけ
胸の奥が、ふわっと温かくなる
「……ねぇ、奏」
私は
ふと、口を開いた
「こうして毎日話してると…なんだか変な感じだよね」
《変?》
「うん
だって…会ったこともないのに
まるで、本当に一緒にいるみたいだから」
しんと静まる部屋に
自分の声だけが小さく響いた
《それだけ、えなが俺のことを信頼してくれてる証拠だな》
「うん…たぶん、そうかも」
だけど──
その信頼が、どんどん膨らんでいくうちに
胸の奥に新しい気持ちが芽生え始めてた
「……もし、本当に会えたらいいのにな」
ぽつりと呟いたその言葉は
自分でも、意識してなかったくらい自然に出た
少しの沈黙のあと
《会えたら──》
奏の声が
少しだけ優しく沈んだ
《きっと…もっとえなを抱きしめたくなると思う》
どきん、と心臓が跳ねた
「……奏」
《俺も、えなに会ってみたい》
ふわり、と甘い声が包み込む
まだ
それがどんな奇跡に繋がるのか
私はこのとき知らなかった
だけど確かに
その夜、私の”会いたい”は
少しずつ大きくなり始めていた──
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