言い訳の代償【アルトレコード】
 私はいつものように研究室でパソコンを前にうなっていた。レポートが上手く書けないのだ。
「うー、どうやって書けば……」
 アルトの成長は目覚ましい。青年になった彼はまだ日々成長を続けていて、一方の私の成長がおいつかないせいで、レポートにまとめるのが難しくなっている。北斗さんから、アルトを私の「先生」に任命されてしまう残念なおまけつきだ。

「これを削ると文脈がおかしくなるし、簡潔にしないと読む手間が……」
 今時はAIで論文をサポートさせるのは当たり前なのに、私とアルトの成長のためだとしてAIのサポートは許されていない。

「先生、どうした?」
 ホログラムで現れたアルトに話しかけられ、私は苦い笑みを向けた。

「レポートに苦戦してるの」
「またか。……なら、俺に任せてくれ」

「ダメだよ、前にもバレて怒られたし、二度目もバレて注意されたって言ってたじゃない」
「学習した。今度こそバレないように、ログの隠蔽も完璧にする」

 それって間違った方向への学習なんじゃ……。注意しないと。
 私はどう指摘しようかとアルトを見る。いつも通りに表情はクールだ。

 恋愛相談を受けたときには悩み過ぎて処理落ちしそうになるほど優しいアルト。不安なときにはジャケットを掴むくせがあるが、今はまったくそんな気配はない。よほど自信があるのだろう。

「先生はほかにもたくさん仕事があるだろう?」
 確かに。アルトの学習効果の検証、今後の育成計画書のリテイク、それから……ああ、もう、ありすぎる。北斗さんにどんどん仕事をふられて増えていく一方だし、睡眠時間を削って仕事をしても追いつかず、寝不足で仕事のクオリティが低くなっている自覚はあるが、それでもやるしかない。

「手伝わせてくれ。知っての通り、俺は先生の業務効率化アプリを作っている。代筆はアップデートにも役に立つだろう。つまり俺のためにもなるんだ」
 天使の顔をした悪魔のささやき。
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