双つの恋、選んだのは君だった
第7章

決断


――――


週末のキャンパス――

夕暮れの帰り道で
響がわたしを待っていた

「少しだけ時間いいか」

「……うん」

静かに並んで歩き始める

しばらく沈黙が続いたまま
ふいに響が口を開く

「……お前、もう兄貴に返事すんの?」

ドクン――

「……わたし…」


小さく苦笑しながら、響は続けた

「別に、誰を選ぶとかはお前の自由だしな」

ゆっくり前を向いたまま、響の声が少し低くなる

「けど…さ」

「お前と一緒にいる時間は
俺にとっては…毎回全部、特別だった」

ドクン――

「上手く言えねぇけどさ」

わずかに目線をこちらに向ける響の目が、真剣だった

「お前の隣にいた時――
ちゃんと”俺の居場所”だって思えたんだ」

その言葉が胸にじわっと響く

「多分…俺にとっては、それだけで十分だったのかもな」

少しだけ笑った響の声が、どこか切なくて静かだった

「でも、今のお前をこれ以上困らせたくねぇ」

ゆっくり足を止める響

「だから――もう、俺からは何も言わない」

ドクン――

「……響くん…」

その時、背後から小さく足音が聞こえた

「紬ちゃん」

振り返ると樹先輩が静かに立っていた

「……少しだけ話が聞こえちゃったけど――」

静かに微笑む先輩

「なんだ…響も…

でも今はもう、紬ちゃんの気持ちがすべてだよ」

ふたりの視線を受けたまま
わたしは胸がぎゅっと苦しくなる

ドクン…ドクン…

(私――)

優しさも
不器用さも
ずっと全部が積み重なってきた

だけど今は――

わたしの心は、ゆっくりと決まっていた__

――――
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